パンデミックを体験した社会が変質し始めています。ポストCOVID-19の近未来社会の時代がいかに変容し、「新しい資本主義」が意味する(と期待したい)幸福な日本社会をどのように創出していけるのでしょうか。
このシリーズは、組織社会の中における総務(ファシリティマネジメント)機能について、実務的な役割だけではなく、「新たな社会価値創出」の視点から、新しい未来型総務の価値を考察していきたいと思います。
さて、このシリーズ開始にあたり、まずは総務とは何かを整理しておきましょう。
総務が行うのは裏方仕事だけ?
一般的に会社組織の中での総務のイメージは「縁の下の力持ち」的なものでしょうか。要は、営業や企画・開発部門とは異なり、仕事の内容が本業(価値を生み出すサービスやプロダクツ等)を支える支援・サポート業務であり、目立つことのない裏方仕事と見られています。
しかしながら、筆者の経験から言えることは、総務は裏方仕事だけを行う部門ではなく、組織経営上で欠くべからざる価値創出部門であり、重要な経営基盤を支える業務を担っているということ。ただ、担当業務範囲が広範に及び、「何をしている部門なのかがよく分からない!?」との印象が先に立ち、結果的に管理部門・バックオフィスとして、「よろず雑用係」的なイメージを持たれていることと思います。そして、こうした総務のイメージは長年にわたり、日本の組織に定着しています。
そして、もう一つ、総務を語る上で欠かせないのが、1980年代の中頃から、米国で生まれた経営手法の一つである「ファシリティマネジメント(FM)」なる概念が日本に移入されたことです。1987年6月にFM活動を一つの大きな柱に掲げたニューオフィス推進協会(NOPA、1989年3月社団法人化)が、同年11月には日本ファシリティマネジメント協会(JFMA、1996年9月社団法人化)が発足しています。そして、1987年11月に、FMの視点も導入した幅広い施設の維持保全の確立を目指す建築・設備維持保全推進協会(LCA、1989年6月社団法人化し、BELCA)が発足したことによって、日本でのFM活動が始まりました。
しかしながら、その後、四半世紀以上にわたる活動を続けているものの、FMというと建築・設備維持保全活動のイメージがあり、多くの経営者はFMの「経営的本質」を十分認識できていないように思われます。
総務部門が管轄する業務の一部、設備・管財、営繕なる領域でも、経営者や従業員の意識は「オフィスがあるのは当たり前」、「快適に執務できるのは当たり前」、「設備不具合で業務に支障がでるのは総務の怠慢」・・・といった思いを持つ人たちも少なからずいます。
そうした中、「総務の本質」とは、働く人々が快適かつ心地良く仕事に従事できる「場」つくりを担う創造的業務であることを、経営者や従業員等組織社会に対して、分かりやすく継続的に発信していくことになります。
プロフェッショナル総務の役割とは?
経営の基盤を創り支える業務として総務とFMは類似性が多々ありますし、ほぼ同意に使われることもあります。また、広義のFMに包含してCRE(企業不動産)のジャンルを位置付ける場合や、CREを独立して捉えることもあります。
日本では総務に対する社会意識が専門家部門とは見られない傾向があり、「下働き」や「裏方」的なイメージがある一方、ファシリティマネジメントの響きは米国から移入されたスマート感と、基盤業務に加え、より高度なプロフェッショナルイメージを内包しているように見える面もあります。
日本社会におけるFM&CREコンセプトは、まだまだ一般認識されているものではなく、メディアに取り上げられる頻度も限定的で、経営者層の認識も十分とは言えないのが実情です。
筆者の認識は、総務とは、「総」を「務」める「萬プロフェッショナル」であり、社会やコミュニティー内の「場」の演出家兼プロデューサーとして働き、暮らす人々のウェルビーイングワークを創出していく知的創造力と現場力を兼ね備えた専門家と認識しています。
しかしながら、社会ではこの意味が伝わっていないのはなぜでしょうか。
その背景と理由を考察しながら、『組織の「成長と発展」を支える総務部門の役割と具体的職務』を体系的に整理し、総務の価値を考えていきます。