「場」つくりの目的と必要な知識コンポーネント

 組織社会(企業や公共団体等の人間集団や組織を包括的にとらえた社会)をサステナブルかつ発展的に運営していくには、VUCA 時代への環境適応を図るべく、常に改善・改革・変革への挑戦を継続していくことが大切です。

 「働き方改革」「組織改革」「組織文化・風土改革」「意識改革」・・・等々、組織が改革を推進していく目的は、組織を「良い方向に」に向けていくためのプロセスの一つです。

 人それぞれの、さまざまで複雑な想いが錯綜する人間集団である組織を「良い方向」に向けるには、組織は何を為す人間集団なのかを意識し、社会への貢献価値となる「共通善」の意識共有と、トップマネジメントの強力なリーダーシップ力が必要です。

 組織社会はSDGs理念に即応しながら、組織の成長と組織の価値向上を実現していくことが求められています。そして、組織社会で働く人々が、相互にコミュニケーションを取り合いながら、元気で生産的な活動に取り組める「心理的安全性」にあふれた組織に成熟していくことが望まれます。

 また、社員一人一人が自立(律)して、成長していける組織となることにより、結果的に組織自体が社会価値を高め、「人類貢献」につながる結果をもたらすことになることこそが意味のある改革に向けた「場」つくりの目的ではないでしょうか。

 こうした組織経営のリーダーシップを執るトップマネジメントはスーパーマンではありません。トップマネジメントを支える「場」つくりの役割を総務FMプロフェッショナルが担いながら、「場」をプロデュースしていくことが「戦略総務人事」のミッションでもあります。

 組織を「良い方向に」導いていくトップマネジメントの右腕となり、組織で働く人々の成長実感をさりげなく自覚させていくミッション。そして、組織の潜在能力(個々人の潜在的知力の集合能力)を触発させて、「組織知」を誘発しながら価値創造機会の最大化(高収益体質組織への変貌)を演出していく「戦略参謀」的なミッション。こうした高度で難度の高い職務を実現していくためには相応の知識と経験が問われます。

 ここでは、人間集団である組織の「場」つくりに必要な知識コンポーネント群を紹介します。

「社会心理学」と多元的無知などの各種バイアスの影響

 FMスキルを「場」つくりの実務に織り込んでいく「場」のエンジニアリングにあたり、基底的な社会心理学や人間学の知識として認識しておくべきことがあります。

 「場」つくりとは、オフィス空間や働き方改革、DX 基盤構築やネットワーク環境整備、そして組織のコミュニケーションやエンゲージメント改革等の「観点」だけではありません。組織社会を構成している「人間を知る」ことにより「人と場」をプロデュースしいく視座と視点を持つことが大切です。

 まずは『多元的無知』という概念。多元的無知(pluralistic ignorance)とは、多くの人がある特定の価値観や意見を受け入れていないにもかかわらず、「自分以外の人たちはそれを受け入れている」と誤って思ってしまう状況のことです。「自分はそう思っていないが、さまざまな考えがある中で多くの人がそう思っているのならばそうなのだろう」と受け入れ、それに従ってしまう状況のこと。

 「空気を読まず」に異論を述べて自分が不利になるのであれば「空気を読んで」他の意見に同調した方が得策である、と考えて多数の意見に従い、その結果、多くの人が受け入れていなかったはずの意見が多数派となってしまうことも、多元的無知の一つとして捉えられています。

 アンデルセンの童話「裸の王様」における「王様の新しい衣装は自分には見えないが、皆は素晴らしいと言っているので自分も同じように言っておこう」という心理と共通するものがあり、例として挙げられることがあります。

 この他、組織社会での「場」つくりをプロデュースしていくにあたり、認知しておくと有用な「社会心理学等」の知識を以下に紹介します(個別の解説はここでは割愛します)

・ホモフィリー/・多数派同調バイアス(集団同調性バイアス)/・内集団バイアス(内集団ひいき)/・傍観者効果/・エコーチェンバー現象/・確証バイアス/・外集団均質化効果(外集団同質性バイアス)/・インタレストグラフ/・アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)/・フィルターバブル/・偽の合意効果(フォールス・コンセンサス効果)/・心理的安全性/・ハイコンテクスト・・・.etc.

 総務FMプロフェッショナルは、社会心理学の領域のみならず、脳科学、行動学、生理人類学等、「場」つくりメソッドの裏側で意識しておくべき学術的要素を修得していくことで、「場」のクリエイティブ品質と組織の潜在力を高めていく機会を増幅させていくことができます。