工場管理者側の技能教育に対する理解不足

 多能工化の取り組みが現場作業のみにとどまってしまう理由は、主に工場管理者側の技能教育に対する理解不足にある。

 当たり前の話だが、「多能工」というと一般的には複数の工程を担当できる人員のことを指すが、工場の仕事はものづくりだけではない。生産性をさらに高めるための改善活動や、現場のロスを極小化する設備の自主保全、外部流出コスト低減につながる治工具製作、製造間接業務の効率を向上させる電子ツールの活用(手書き書類のデジタル化等)なども、「強い現場」には必要である。

【ものづくり以外の多能工化対象例】
・生産性をさらに高めるための改善活動
・現場のロスを極小化する設備の自主保全
・外部流出コスト低減につながる治工具製作
・製造間接業務の効率を向上させる電子ツールの活用(IoT化推進)


 すなわち、従業員の「真の多能工化」に取り組む際には、直接ものづくりを行う職場だけを対象とするのではなく、「改善活動ができる人」「自主保全ができる人」「治工具製作ができる人」など、より幅広に多能工化の対象を定め、活動を推進していくのが望ましい。

工場管理者の意識を変え、QCDレベルの限界を突破しよう

 では、上記のような幅広さ・奥深さをもった多能工化を進めていくためには何がポイントとなるのだろうか。そのポイントは大きく分けて3つある。①工場管理者への教育、②仕組みとツールの整備、③多能工化対象選定時点からの作業者の巻き込みの3点である。

①工場管理者への教育
 先述したように、多能工の範囲を狭めてしまっているのは工場管理者の理解不足が主原因である。中には「現場作業者は余計なことは考えず、ただひたすら決まったことをすればいいのだ!」と主張する管理者もいるくらい、管理者ごとの多能工化範囲に対する認識ばらつきは大きい。

 従って、まずは各工場の管理者の認識を合わせていく取り組みが必要である。また、真の多能工化を進めることができた場合のメリットについても、管理者側に示していかなくてはならない。メリットの内容はもちろん工場ごとに異なってくるが、主には「改善活動推進による方法改善を通じた直接作業の生産性向上」「IoT化推進を通じた間接作業の生産性向上、直接作業工数比率向上」などが挙げられる。

②仕組みとツールの整備
 2点目が仕組みとツールの整備である。以下の図に示した通り、仕組みの骨格はものづくりだけを対象とした技能教育と変わらない。活動のポイントは、現場のQCD向上につながる要素をどれだけ幅広に洗い出せるかにある。

 また、教育を行うためには、教育を施す側の技能アップデートも必要になってくる。特にIoT系の技能を教育するためには、ハードウエア・ソフトウエア双方の知識が必要となるため、必要に応じ管理者側の意識改革も進めながら活動を推進する。


③多能工化の対象の選定時における作業者の巻き込み
 3点目のポイントは作業者の企画段階からの巻き込みである。どんなことにも同様にいえるが、人は自身の知らないこと、想定していなかったことに対してはどうしても後ろ向きな対応が先に出てしまう。この多能工化対象拡張の取り組みについても、いきなり作業者に「君は明日から現場のものの管理をデジタルで進めてほしい、使用するツールはこれで、学んでほしいスキルはこうだ」と伝えたら面食らってしまうだろう。

 また、本項の冒頭にも記載したように、作業者は作業者なりの問題意識・課題意識を有している。その問題意識の根源は「現場をより良くしたい」という思いである以上、そうした問題・課題意識を有効活用する方が良い現場に近づくのは道理である。

以上の理由より、多能工化の対象を選定した時点から作業者を巻き込み、育成対象技能を設定することは非常に大切な取り組みといえる。
 
 本項では「あるべき多能工の範囲」について、現場での実例からうまく進められない理由、その対策の順に解説を行ってきた。本取り組みを行う上での最重要ポイントは、一にも二にも工場管理者の意識改革・貪欲な現状否定・改善推進マインドの醸成にある。本項の内容も参考にしていただきながら、読者の皆さまの現場でもぜひ「真の多能工化」に取り組み、さらなるQCDレベルの向上を実現いただければ幸いである。

コンサルタント 有賀真也(ありが しんや)

プロセス・デザイン革新センター
チーフ・コンサルタント

「現場と一体化した生産性向上活動」をモットーとしたコンサルティングスタイルを貫く。現場成果と財務成果をつなげるコンサルティングに強みを有する。
【主なコンサルティング実績】
現場生産性向上活動推進支援(製造業・サービス業)
業務標準化およびKPI設定を通じた業績管理・マネジメント推進支援
IoTツールを活用した現場改革余地診断および改革支援