その立派な生産進捗管理ボードは、いったい誰のため?

 あらゆる業種の工場では、生産の進捗を管理する目的として、ホワイトボードや、生産管理システムと連動し、計画と実績をディスプレイで表示させる仕掛けなどを導入している。
 生産進捗管理ボードはその名の通り、ある一定期間における計画に対する、実績値の進み具合を判断するボードである。実績値は、実際に良品を生産した数量だけでなく、不良品数も合わせて記録し、歩留まり率を算出している。

 ある工場に訪問した際、現場の作業者に「この生産進捗管理ボードで何を注意していますか?」と質問したところ、「計画を守るように、不良を出さず生産することです。」と返答があった。「しかし、前工程の遅れが原因で部品があなたの工程に来ない、不良が見つかったなどの場合は、あなたの工程が原因ではないのに計画を守れなくなることもありませんか?」とさらに質問したところ、「前工程が遅れた場合は、その待ち時間を自身の作業時間にあて、より丁寧に作業します。また自身の工程での不良でない場合は遅れてもしょうがないですね。」との返答だった。本人たちにとっては、1日の仕事量に合わせ、時間を有意義に使っているつもりなのである。

 その生産現場の考えとしては、最終的には月末に帳尻を合わせて残業でカバーし、月の生産数量を達成するので問題ないとのことであった。また日々の生産進捗が遅延している場合も監督者からの指示は特にないようである。これでは生産進捗管理ボードがあっても、誰も気にも留めない、いわゆる町の掲示板(よく見ている人がいれば申し訳ないが)と同じ扱いになっている。
 生産進捗管理ボードで遅れが発生している(発生しそうだ)と分かっていても、特別に何か手を打つわけではなく、工場全体の日々の計画を達成することに執着しなくなっているのだ。

計画と実績の差異や計画そのものの背景を本気で考えていない 

 なぜ、そのような状態になっているのか?まず、作業者は自工程の生産実績を上げることが仕事であると思っており、遅れに対する対応は監督者の仕事と切り分けて考えている。そして監督者は、日々の計画を達成するために、遅延が発生している現場に自ら入り込んで作業しているため、各工程への指示が疎かになっている状況である。 作業者として、自身の工程を不良を出さずに完璧に行うという意識は非常に大切なことではある。しかし、工場全体を見据え、なぜ遅延しているのか、他工程が遅延している場合は自身に何ができるのかも考えていく必要がある。

  遅れが発生するケースとして、大きく2つが考えられる。
 まず、「計画数量は適正だが、実績が守れない」ケースがある。材料・部品の納入遅れなどのサプライヤーの問題や、ミスやトラブルの発生など、製造中の問題で遅れが発生する。遅れが顕在化していても、遅れに対する監督者の指示がなく、また遅れが発生した場合の応援も特に行われていない。その結果、各作業者は明日以降の作業に取り掛かっているケースが見受けられる。
 もうひとつは「計画数量がそもそも適正でない」ケースである。計画数量を材料の入り具合、前工程の生産性、自工程の標準時間などを考慮せず、経験と勘で設定していた場合は、工程能力に見合っていない計画数量が設定されている。作業者はそもそも計画を信じておらず、自分のペースで作業を行っている。 遅れに対して人でカバーしていくこともせず、そもそも遅れの原因を明確にすることもせず、原因に対し改善していく取り組みが行われないことが根本的な問題と考える。