予防医学とデジタルの相性は良い。病気を予防するためには、毎日の生活や病気の予兆などデータの利活用が効果的だからだ。日本生命は、2020年から糖尿病の予防プログラムの提供を始めた。さらに今年から、糖尿病の予防プログラムの開発で蓄積したノウハウを応用してメンタルヘルスケアのプログラムの研究開発に乗り出している。生命保険会社が予防医学の分野に参入する狙いはどこにあるのだろうか。
「人生100年時代」の生命保険会社の役割とは
「予防プログラムへの取り組みが始まったきっかけは、人生100年時代が始まり、健康寿命を伸ばしていくことが国家的課題になってきたことです」と話すのは、ヘルスケア事業部 ヘルスケア事業企画担当部長の須永康資さん。
生命保険会社が提供する主なサービスは、病気のサポートや死亡した場合の保険金の支払い。平均寿命が短く、まだまだ働き盛りの50歳代、60歳代で亡くなる人が多かった時代には、保険の大切さが認識されていた。
ところが、90歳、100歳まで、多くの人が生きるようになると、健康寿命延伸に向けた予防サービスへのニーズが顕在化したり、早期発見できるスクリーニングサービスを受けたい、といったニーズが高まる。そこで、万が一に備える保障だけではなく、リスクそのものを低減させるヘルスケアサービスも提供しようということになり、2017年5月にヘルスケア事業の本格展開を始めた。
デジタル化に向いているのは生活習慣病
当初は、健康保険組合や共済組合などから健康診断やレセプト(診療報酬明細書)の結果を預かってデータヘルス計画の策定支援をしたり、事業者ごとの状況を分析するなど、データの分析コンサルティングからスタートした。そうした中から、「病気を招く社会環境や分析結果は分かったが、具体的にどうすればいいのか教えてほしい」といった声が高まってきた。
「そこで、関連財団が運営する日本生命病院のドクターと、どんな予防プログラムがいいのかディスカッションを重ねました」(須永さん)
結果として糖尿病予防に決まった。糖尿病は、典型的な生活習慣病。健康でもないが病気でもない未病対策が非常に大切になる。その段階で予防すれば糖尿病にならずに済むからだ。
仮に罹患すれば、病気はゆっくり進んでいく。入院せずに投薬だけの治療の人が多いので、急性疾患と違って、保険金を支払うという意味で、保険会社が役立つ機会はあまりない。
一方で糖尿病患者や疑いのある人を合わせれば、その数は2000万人にも上るという推計もある。未病のうちに、対策を打つことの社会的意義も大きい。
そこで、日本生命、日本生命病院、それに複数のメーカーとのコラボレーションで、糖尿病予防プログラムの開発が始まった。