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2022年4月1日、東京証券取引所や大阪取引所などを運営する日本取引所グループは新たに「JPX総研」を設立した。グループ各社のデータ・デジタル事業を集約した戦略的な事業展開の中心となる組織体だ。長年にわたってデジタル化に注力してきた同グループがなぜ今、専門的な組織を必要としたのか。これまでのデジタル化の歩みとJPX総研の狙い、これからのデジタル戦略について、専務執行役CIOの横山隆介氏に話を聞いた。
ライフスタイルの変化、規制緩和、フィンテックの台頭など、金融機関の経営環境は激変の一途。今やDXによる変革は待ったなしです。金融業界におけるDXキーパーソンへのインタビューにより、DX戦略の全体像から、データ活用、CX、カルチャー変革、デジタル人材育成まで、金融DXの最新の事例を取り上げます。
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ビジネス環境の変化に備え、デジタル推進組織を開設
日本の証券取引市場の8~9割の取引を担う東京証券取引所、デリバティブ市場の大阪取引所と東京商品取引所を運営する日本取引所グループにとって、競争力の源泉となっているのはITシステムである。2010年に稼働を開始した「arrowhead」は世界最高水準の高速性、信頼性、拡張性を持った現物商品売買システムとして高く評価されてきた。
圧倒的な競争優位を確立し、安定的にサービスを提供している同社グループだが、IT部門としては強い危機感を持ってきた。横山氏は「デジタル化の進展によるビジネス環境の変化が当社のビジネスにも何らかの影響をもたらすのは当然です。どんな手を打つべきか数年前から議論を重ね、試行錯誤してきました」と話す。
実際に海外における商品の取引は大きく変化している。さまざまな取引プラットフォームが生まれ、暗号通貨や各種トークンでの取引も普及しつつある。取引の対象は株式以外に広がり、GAFAのようなプラットフォーム企業の参入も予想されている。
「もう1つの危惧は日本のITベンダーの仕事の中身が変化しつつあることでした」と横山氏。誰もがITを活用できるようになり、所有ではなく利用するサービスモデルが広がり、納品してもらって5年、10年使うような開発案件は減っている。arrowheadのような大規模な開発がいつまでできるのか先行きが不透明になってきている。
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「どうしたら持続可能性を高められるのか議論を始めたのは2017年末のことでした。1年かけて国内外の状況を調査し、IT部門としての中長期ロードマップを策定しました」と横山氏は語る。10年先のIT部門のあるべき姿を描き、そこからバックキャストしてクラウドの導入やビッグデータの活用など今取り組むべき5つの要素を経営に提言した。
この提言を受けて2019年4月に横山氏を委員長とする「デジタル化推進委員会」が発足する。バーチャルな組織ではあったが、デジタル化に関する情報を集約し、5つの要素についてのPoCを実施した。「ただ、このときはあくまでもITの観点からの検証で、JPXとしての価値の提供はITだけでは成り立たないことが見えてきました」(横山氏)
そこで翌年4月には委員会を発展的に解消し、DX本部を立ち上げる。業務部門の担当役員も加わり、PoCについても実務や実サービス寄りのものにシフトし、「ビジネス・ITが一体となったサービス提供体制」を目指した。他社のDX事例の共有や働き方の改善にも取り組んだ。
しかし、その矢先に同グループを揺るがす大事件が起きる。2020年10月にシステム障害が発生し、終日売買停止という事態に陥ったのである。