九州旅客鉄道株式会社 総合企画本部 IT推進部長 長﨑剛氏。1993年入社後、鉄道事業本部にて2008年に営業部営業課担当課長、14年に運輸部担当部長などを経て2018年より現職。

 2022年にDX認定を取得した九州旅客鉄道(以下、JR九州)グループは、「JR九州グループDX戦略2022-2024」にて、自社の目指す姿を掲げる。「お客さま体験価値の向上」「オペレーション・メンテナンス改革」「働き方改革・生産性向上」の3点だ。いずれもデジタル技術を最大限に活用し、効率的で質の高い価値を生み出すことを目指している。

 IT推進部長の長﨑剛氏は「まだ鉄道業界はアナログな面や仕事が多い。DX戦略で目指す3つの分野では、今やっているビジネスをしっかり行う『最適化』と、新サービスやオペレーションの大変革を行う『変革化』の2つのアプローチで取り組んでいる」と語る。

顧客購買・行動データから適切な体験価値を提供

JRキューポサイト 

 「お客さま体験価値の向上」では、JR九州グループ内のネット予約や加盟店等の利用に伴い付与するポイント「JRキューポ」を軸に、グループ内外との連携やデータ活用を進める。それぞれで管理している顧客データをグループ全体で利活用できるように基盤を再構築するとともに、顧客動向を把握することでLINEでの案内やクーポン提供の内容など、より適切な顧客アプローチを行っていく。

 インターネット列車予約&チケットレス乗車サービス「EXサービス(エクスプレス予約&スマートEX)」でも、2022年6月から九州新幹線区間が加わったことから、さらなるCRM(顧客関係管理)の強化を目指す。

「利用者の半分以上がネットに切り替わっている。紙チケットではお客さまの利用状況の把握が困難なので、できるだけインターネット予約にシフトすることで、お客さま動向を素早く捉え、利便性の向上や駅サービスの再構築、商品体系の見直しに活用していきたい」

「my route」のルート検索画面(左)とルート検索結果画面(右)。交通手段にとらわれない快適な移動を目指す

 2019年より西日本鉄道と連携して取り組む「オール九州MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」では、トヨタ自動車が開発した「my route」を活用する。「my route」は、ルート検索からチケット購入までをスマホで完結でき、近隣スポットも簡単に調べることができるお出かけアプリだ。

 コロナ禍の中で他社とも協力して九州全域にサービスを拡大した結果、宮崎県でのスマホで購入・表示されるデジタルフリー乗車券発売枚数は累計2142枚(2022年2月末)の発売に成功している。ライバル企業とも連携することで、地域全体で交通利用者を増やし、より九州間の移動を効率的にして利便性を高める考えだ。