九州デジタルソリューションズ株式会社 代表取締役社長 德永賢治氏

 DXが期待されるのは、決して都市部だけではない。確かに東京、大阪ではDXのセミナーやイベント、サービス紹介等が喧しいが、その活躍を必要とするのは都市部も地方も同様だ。最近では、経済産業省が提唱している「DX認定」を取得した約420団体※1において、都市部以外が約3割と増えてきている。今回、取材した九州デジタルソリューションズ社は名称通り九州は熊本の企業で、九州DX認定企業12社中の1社である。元々は、30年以上、地元 肥後銀行のシステム周りや収納代行などを担当していた子会社だったが、昨今の変革の波を受けて大変身。DXといったデジタルソリューションを地元産業界に提供するシステム企業へと大きく舵を切り、同時に社名も新たにした。デジタルは、どこだって役に立つのが大きなポイントといわれるが、九州の地でスタートしたDXは実際どうなのか、九州デジタルソリューションズの代表取締役社長 德永賢治氏に聞いた。
※12022年6月時点、DX推進ポータルにおいて420団体・事業者の登録あり

会議の活性化や情報収集がとても容易に。九州でもDXの恩恵はとても大きい

「弊社は以前、肥銀コンピュータサービスという名前で、銀行システムのメンテナンス、開発の補助や収納代行などを行ってきました。銀行の関連会社なので規制範囲の中で、ずっとやってきたわけです。ただ、近年、規制が緩和されるとともにITに対する機運も高まってきた。そこで当社は、銀行関連のお客さまのITニーズにお応えする課題解決ビジネスに大きく舵を切りました。DXも話題になり、社会的機運も高まってきた感もあります」と德永氏は、同社の今の立ち位置を説明する。

 取材は、JR熊本駅そばの最新設備が整ったそれは立派な新築ビルで行われたが、このビルへの本社移転もつい最近だったそうで、同社の新たなスタートへの意気込みを感じた。

同社が入っているビルの外観。アグレッシブな造りが目立つ

 同社内におけるDXの取り組みも進んでいる。業務はペーパーレスが基本でハンコもほぼ不要、ワークフローでの決裁関連、勤怠管理などは全てデジタル処理されており、リモートワークが基本で出社したらフリーアドレス。德永氏は特別ではないと言うが、都市部でもここまでそろっているところは少ない。特にビル内には、個人が仕事に集中できるスペースがそこここに用意されており、熊本城が見える風光明媚を堪能できるブースで企画立案に没頭することも可能と、環境リッチな業務スペースも用意されている。

 こうしたデジタル活用の動きは同社内にとどまらず、関連する銀行関係者の間でも進んでいる。德永氏によれば既に効果が出てきていると言い、その1つとして熊本市の南、人吉の営業店ブロックの事例を挙げてくれた。熊本市は県の政令都市で、市内には約74万人が在住しており、隣の店舗同士での会話や打ち合わせも容易に行える。しかし、熊本市から南約60km離れる人吉市は、人口は約3万人で熊本市の4%ほど。「隣といっても遠いのです」(德永氏)と言う背景から、人吉ブロック内の店舗同士は遠く、顔を見て意見交換する機会は少なかった。ミーティングを開いても普段の親しみが薄いので、どうしてもおざなりな発表になりがちだったと言う。

 しかし、コロナ禍でミーティングが一気にリモート化され、会おうと思えばすぐにWeb会議可能という環境に変化した。これを機会に德永氏は「もっと話し合いを増やして、情報共有に努めては」と提案。人吉ブロック内の支店長同士もPC経由で、いろいろな意見交換を始める。すると、これがどんどん進んで、会議の中でいろいろな問題提起や悩みが出るようになり、そこから問題の共有化や知恵を出し合っての解決がとても活発になってきた。最初は店舗内からのアクセス中心だったのが、移動中の車内からアクセスするなどWeb会議のテクニックも上達。結果、人吉ブロックは業績も上がって昨年度下期、銀行内で最高位の表彰を受けた。

「こうしたらどうですかとか、うちがこんなことやるからお宅と一緒にやりましょう、といった会話がWeb会議の中でどんどん広がるようになったんです。今までの会議は発表が中心だったのですが、今は問題解決の会議に変わった。私はその様を見て、この地区は絶対に良くなるって思ったんです。そうしたら予想以上に早く良くなって表彰にまで至りました」と德永氏は当時を振り返る。

 人吉ブロックの人が変わったわけではない。変わったのは意見交換のツールであり、それによる手間の軽減、機会の増加、それが参加者の活性化につながったわけだ。德永氏は「こうしたことがDXの効果だと思います。お客さまのいろいろな暮らしに役立つ、そういったものが広がることで地域が活性化する。そして、われわれの使命はこうしたDX効果の普及だと思っています」と述べる。

 DX効果は、従来都市部での開催が中心だったITセミナーなどでも感じると言う。東京や大阪でのリアルな開催がメインだったIT系のセミナーが、コロナ禍で一気にウェビナー化された。そのため、従来は出張費や時間をかけて代表者数人しか参加できなかったものが、今はウェビナーなので選び放題。「今は様変わりですよね。本当に便利になった」(德永氏)