SWIFT除外の意味
SWIFTはコルレス国際送金に使われる共通メッセージですので、SWIFTから除外されると、SWIFTを用いるコルレス国際送金を使った資金のやりとりはできなくなります。もちろん、これによってロシアとのモノやお金のやりとりが一切できなくなるわけではなく、ロシアと他国に跨って営業する銀行のSWIFTに拠らない行内ネットワークを使うとか、SWIFT以外の国際決済ネットワークを用いる手もあり得ます。また、バーター取引や暗号資産を使う迂回路も考えられなくはありません。しかし、実務上、SWIFTは世界的な共通インフラであるため、ここからの除外は銀行経由での国際送金を極めて困難にします。
もちろん、SWIFTからの除外措置の影響はロシアにとどまりません。海外の企業にとっても、石油や天然ガスの輸入代金を払う手段がなくなり、これらの一次産品を輸入できなくなるかもしれません。また、売掛金や投資が回収できなくなるかもしれません。
今回のEUの措置をみると、SWIFTから除外される7銀行は、必ずしもロシアのトップ7行というわけではありません。また、EUの決定は3月1日ですが、除外措置の実施は3月12日とされています。これをみる限り、EU側は、ロシアのどの銀行を排除すれば欧州側の影響を小さくできるのか、慎重に考えたものと思われます。また、決定から実施まで10日以上のラグがあるのは、欧州企業などに準備をさせる意味合いもあるでしょう。同時に、「SWIFTからロシアの銀行を除外」という報道を積極的に流させることで、SWIFTから実際にロシアの銀行を除外する前に、ロシア・ルーブルの下落やロシアの格下げなど、金融市場の反応を使った揺さぶりをかける意図も感じます。
濫用は慎むべき
ウクライナという他国の領土への一方的な侵入というロシアの行為は異例のものであり、それだけに今回、異例の対応が必要となっているという事情があります。
そもそも、SWIFTは世界中の銀行が集まり、インフラを共通化することで国際送金を便利にすることを目指した組織です。世界中の車のウインカーやブレーキランプの位置について、誰もが理解ができるようにそろえられていることが、世界の交通を便利にしているように、SWIFTのフォーマットがそろえられていることが、世界の送金電文の交通を便利にしているわけです。
このようにインフラの共通化が進んだからこそ、皮肉にも、これからの除外が制裁としての意味を持ち得ることになります。しかし、このような形での制裁を他の事例にも濫用してしまうと、いくつかの国々は同様の制裁を恐れ、インフラをなるべく共通化せず、SWIFTの利用を避け、基軸通貨を使わない方向に舵を切るかもしれません。
世界の金融サービスを、「サイロ化」されたインフラが濫立する状況にしないためにも、金融におけるインフラ共通化の重要性も意識した対応が、今後求められてくるでしょう。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。