DXを面で広げるため、社内外で進めるコラボレーション

 同社ではDXを加速させるためのエンジンの内製化を進めるだけでなく、スタートアップや有力技術パートナーとのオープンなコラボレーションにも積極的に取り組んでいる。その一つがIoTやロボティクスなどハードウエア関連のスタートアップに特化したアクセラレータプログラム「HAX Tokyo」である。

 スタートアップに対しては、デザイン思考のワークショップを実施するなどして事業成長に必要な専門知識を提供し、Demo Dayでの成果発表の場も用意する。大企業には、スタートアップとのマッチングイベントなどを通じて新事業創出の場を設けている。支援先のスタートアップは深セン、サンフランシスコ、西安における事業展開の機会などがある。

 2020年2月には、シリコンバレーのイノベーションプラットフォーム「Plug and Play」とのコラボレーションイベントを開催するなど、外部との連携も強化している。

 「HAX Tokyo」プログラムの開催場所となったのが、同社が大手町に開設している「MIRAI LAB PALETTE」。業種を超えたコラボレーションを推進する会員制のオープンイノベーションラボとして2019年4月から活動している。

 そして、DXを実装する上で大きな力になっているのが、グループ企業であり、大手システムインテグレータのSCSKだ。芳賀氏は「DXを加速させるパートナーとして、一体となって臨んでいます」と語る。

 一方、社内への浸透策にも注力している。全従業員をDX人材にするべくオフライン、オンラインでさまざまな取り組みが行われてきた。オフラインでは、18拠点2600名に対して実施するDX説明会や延べ1500名超が参加している「DXオープンカレッジ」をはじめ、マネジメント向け情報連絡会ではDX案件を毎月共有している。

 オンラインでは、社内広報誌「What’s on DX」を毎月発刊するほか、「DXチャンネル」という特設サイトを設けて事例の紹介や双方向コミュニケーションの場として活用している。

DXセンターを推進ドライバーとし、DX技術専門子会社Insight Edgeとともに、スタートアップや有力技術パートナーとオープンコラボレーションで連携する

即効薬はなく、効果測定も難しい。大志を抱いて取り組むことが大切

 今後の展開について芳賀氏は「DXのメニューを作って現場に提示したい」と話す。デジタルをどう活用するべきかの勘所がない現場に対し、勝ちパターンを示すことで変化を促すのが狙いだ。そのためにも現場に密着して次世代成長戦略テーマに沿ったDXの成功事例を作り上げていくことが求められる。

 同社で主役となるのは事業部門であり、そこにDXセンターとして支援を行っていく形は今後も変わらない。ただし、社風として横の連携を受け入れる文化があるか否かはDXの成否を大きく左右する。「社内の連携は当たり前という文化を醸成し、内製化された技術部隊とパートナーの力を最大限に引き出しながらDXを全社に広げていきます」と芳賀氏は意欲を語る。

 とはいえ、その道のりは容易ではない。発想からスタートして構想、企画、設計を経て実装に至るまでには時間がかかり、効果測定も難しい。芳賀氏は「デジタル時代はスピードが重要ですが、DXは企業文化との戦いでもあります。無理やり進めても成果は得られません。即効薬はないのです」とも言う。

 DXセンターとしては、既存の事業の売上拡大を支援するとともに、将来の成長につながるビジョンを示していくという両面からの取り組みが必要不可欠となる。

 同社ではDXの先に「デジタルソリューション総合商社へ」というスケールの大きなビジョンを掲げている。芳賀氏は、高いモチベーションを維持し続けることの大切さを強調し、「DXは、日本の労働生産性の問題の解決につながるものであり、日本復興のための重要な施策の一つです。総合商社としては、グローバルの成功事例を日本に持ち込む役目を担わなければならないと感じています。For Japan、For Globalという大志を持ちながら取り組んでいきます」と締めくくった。