高校野球からオリンピックまで、「密室での不可解な選考や判定」でモヤモヤしてしまうことが多い昨今にあって、評価する側が評価を受ける側にきちんと説明責任を果たすことは、見ていて気持ちが良いだけでなく、お互いの「学び合い」にもつながるナイスな取り組みだと毎年感じている。

新宿のまちの賑わい再興にはアイデア「探索」が不可欠

 それでは新宿区と東京商工会議所新宿支部の共催による「U35新宿ビジネスプランコンテスト」はどのような事情でスタートしたのか。いま一度、コンテストの開催がスタートした4年前に立ち返ってみよう。

 新宿区の産業振興に関する広報誌『新宿ビズタウンニュース』(2019年3月20日号)の説明には、「U35新宿ビジネスプランコンテスト」は「(新宿区の)産業振興プランで掲げている『価値創造に向けた積極的な事業活動の推進』に基づく事業のひとつ」であり、「区内産業の活性化には、既存事業者の支援だけでなく新規事業者増加に向けた対策も必要」という課題認識のもとにスタートしていること、さらに「区内には複数の大学があり、若い企業人・起業人も多いため、次世代を担う若者に、ぜひその柔軟な発想をビジネスに繋げてほしいと考えた」とその背景・理由が分かりやすく記されている。

 デジタル化の急速な進展や若い世代の労働力不足という社会課題に直面する中で、新宿区の産業を支えてきた多くの百貨店、中小の小売店・飲食業は事業環境が厳しくなり、疲弊し続けてきた。行政や経済団体も一般の企業のようにデジタル化推進を前提に、新たな事業を「探索」することと、既存の事業の「深化」とを両利きで行うマーケティング戦略(参考:『両利きの経営』チャールズ・A・オライリー、マイケル・タッシュマン著)が不可欠になりつつある。

 特に次世代を担う若者(新宿区に所縁のある若い企業人・起業家)の柔軟で新鮮な発想を、特にビジネスアイデアの「探索」の領域に生かし、新たなイノベーションを起こすことは、新宿区にとって希望や願望ではなく、明確なマーケティング目標なのだ(下の図を参照)。

若き起業家の事業アイデアを「探索」の方向に生かすことが重要だ(『両利きの経営』の考え方をベースに筆者が作成)

 そしてこのタイミングでとりわけ重要なのは、コロナ禍を言い訳にビジネスアイデアの「探索」は止めてはならないどころか、倍速以上で加速させなければ、やがて「座して死を待つ」状態に追い込まれてしまいかねないという強い危機感だ。

 今年1月初旬、ラスベガスで開催された「CES 2022」。オミクロン株の急速な感染拡大で出展をキャンセルする大企業が続出する中でも、普段のCESと遜色のないホットスポットだったのが、起業して3年以内のスタートアップだけが出展を許される「ユーレカパーク」(サンズホテル会場1階)であった。アメリカ本国はもちろん、フランス、韓国、イスラエル、オランダ、台湾、そして日本などからのスタートアップが国別にエリアを形成して出展し、例年通り多くの来場者を集客していたのには正直、驚いた。

CES 2022 起業3年以内のスタートアップが集まる「ユーレカパーク」の賑わい(2022年1月5日。筆者撮影)