パンデミックにより経済活動に大きな制約がかかる中、業績を伸ばしている企業がある。米国の「Walmart(ウォルマート)」と「Netflix(ネットフリックス)」だ。両社の共通点は企業の存在意義、すなわち「パーパス」を起点にしたDX推進である。この2社はDXをどう進めたら良いか分からなかったり、導入したものの失敗に終わってしまった企業にとって格好のユースケースとなるだろう。パーパスを意識したDXの要点について、立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏が話す。

※本コンテンツは、2021年11月26日に開催されたJBpress主催「第11回 DXフォーラム」の特別講演Ⅱ「世界最先端のDX戦略」の内容を採録したものです。

「ウォルマートの大戦略」をベンチマークする

 GAFAやMicrosoft(マイクロソフト)のようなデジタルネイティブ企業の事例を、そのまま自社に取り入れるのは難しいことも多い。その点、非デジタルネイティブ企業のウォルマートのデジタルトランスフォーメーション(DX)成功例は、多くの日本企業にとって参考となるだろう。

「ウォルマートは、生鮮食料品以外の食品を販売するオンライングローサリーの急増に伴って、『ストアピックアップ』と配送サービスの事業が2020年度の第1四半期に前年同期比300%成長し、『5年分の成長をわずか5週間で成し遂げた』と話題となりました。急成長の秘訣となったのは、ウォルマートのアプリを一気に浸透させたことです。そこには大きく3つのポイントがありました。1つ目は、パンデミックで感染回避のニーズが高く、キャッシュレス機能搭載のアプリが消費者に浸透、デジタルで顧客とつながったこと。2つ目は、アプリ内で注文・指示をして店舗で商品を受け取るストアピックアップが普及し、利便性が向上したこと。そして3つ目は、リアルとデジタル双方での顧客接点を生かして、広告プラットフォーム事業を成長戦略に組み込むことに成功した点です」 

 ウォルマートは、これまで通りの低コスト戦略である「エブリデイロープライス」を軸としつつ、DXによって得たリソースを生かした新たなビジネスモデルを2021年2月に発表した。

 小売りでは、デジタル、リアル双方で構築した顧客接点をさらに活用。ストア、ピックアップ、デリバリーに加え、「Walmart+(ウォルマートプラス)」という定額で無料配達などのサービスを受けられるAmazonプライムに近いサービスを開始した。また、小売り以外の中核ビジネスとして、EC、ヘルス&ウェルネス、金融サービスを本格的に展開することも発表。今後もアプリを起点に、これらのサービスを拡大させていく狙いだ。

 さらに、低コストを維持する戦略と並行して、自社向けに構築してきたオンライン市場と膨大な顧客データ、物流システムなど、DXを実現するための経営資源を総動員し、出品者向けのマーケットプレイスを構築する計画を示した。仕組みをつくり上げるだけではなく、十分にマネタイズできるような好循環のビジネスモデルへと強化していく意向だ。

 ウォルマートの強みは、上図のような強固な「レイヤー構造×バリューチェーン構造」を構築したところにある。もともと巨大スケールで実店舗を展開してきたウォルマート。それがリアルな世界だけでなく、デジタルの中でもスーパーアプリ帝国を築き、双方を掛け合わせたのが現在の姿である。