レビュアー側が無責任な言葉をつぶやいていないだろうか

 そのイノベーションの提案を判断する審議者・レビュアー側にフォーカスを当てて見ていこう。

 歴史ある企業の多くではR&Dのトップ層は50歳超えの人が大半を占める。20年、30年と既存事業の経験が豊富な上位マネジメントの人の中には、新しい考え方を理解しにくい、受け入れがたい人もいるだろう。もっとも、会社の継続を真剣に考えていれば、従来にない新しい考え方は、それが結果として成功するか失敗するかは別にして、提案段階では真摯にそれに向き合うはずである。

 ところが、「若い人で新しいこと考えればいいんじゃない。うちの会社は景気がよくないから、このままでは10年後はなくなるんじゃないか(笑)。まあ、私は5年後にはこの会社にいないからいいんだけど・・・」といった、文字通り、無責任な発言をする年配のマネジャーに時々、出会う。これはマネジメントの責任放棄のようにも聞こえる。本人は深く考えずに、照れ隠しでつぶやいているだけなのだろうが、そのつぶやきが提案者側にどういう心理的影響を及ぼすのかに想像を巡らすべきである。

 「よく分からないから反対だ」というのであれば、まだ説明の余地があり、違う説明をしようかという意欲・ファイトも湧くものだ。しかし、そもそも考える気のない人を相手にするのはやっかいである。「もう自分は残り数年でこのまま何もしなくても逃げ切れるので、あとは知らない」とそもそも提案に真摯に向き合う気がないことを本人が明示的に言っているため、本来であれば相手にしないほうがいいが、相手が意思決定者なだけにそうもいかない。本当にやっかいな構造である。