研究テーマ評価の指標化に頼り過ぎないこと
研究かかるお金は決して少なくない。民間企業の研究は、道楽でそれをしているわけではなく、将来の事業・新商品のためである。しかし、研究にお金を出している経営陣からすると「本当に先行投資する価値のある研究をしているのだろうか」「研究の投資対効果は適切なのだろうか」ということが気になるものだ。そこで「投資が適切なのか、なんらかの指標で示してほしい」という要望が出てくることがある。
ご存じの方も多いと思うが、世の中には投資の評価法として「現在価値法」などの手法がある。これらの手法をものすごくざっくり説明すると、今、取り組んでいる(あるいは、これから取り組もうとしている)研究テーマが将来のある時期に新商品・新事業となって花を咲かせ、実がなったとき、どの程度の収益を自社にもたらすと想定しているか、それにかかる費用(投資)にその期待収益は見合うのかを算出して求めようという考え方である。私は今回、このような手法にも意味はあると認めた上で、手法・指標化に頼り過ぎないことを訴えたいと思う。
今、取り組んでいる研究がどのような商品になって、どのような市場、顧客にどの程度売れていくのかを推定するのは、普通に考えてもかなり難しいことである。
・技術の不確実性:研究の結果として技術が本当にできるのか
・市場の不確実性:想定しているような市場(想定対価を払いたくなるほどの顧客ニーズ)が生じるのか
・競合の不確実性:強い競合が出てくるかもしれない
など、さまざまな要素があり、正確に予測・想定するのがかなり困難なためである。
研究テーマを認めてもらおうとすると、いきおい楽観的な見通しになりがちだが、そうすると「本当にそんなに市場は大きくなるのか? 本当に儲かるのか?」という質問がすぐに飛んでくるものだ。その質問になかなかうまく答えられずにシドロモドロしてしまうことはよくある。そもそも、将来の予測に「本当に」「絶対に」などといった形式で聞くのは無茶な話である。その無茶を承知の上で、研究の価値を分かってもらうために、市場規模を想定し指標化・数字化しているのが実際だと思う。