製造業が抱えるボトルネックの三重苦による経済損失の大きさ
労働生産性の向上には、デジタル技術を活用した、設計・調達・製造・販売というものづくりのバリューチェーン構築が重要になってくる。例えば、設計は、昔は手書きで行われていたが現在はソフトウエアを用いる。製造は自動化ロボット、販売はEコマースという形で、デジタル化による生産性向上は進んできているのではないだろうか。
「実態は、調達に関しては現在もなお、紙やFAXを用いることが多い。当社の調査では、製造業におけるFAX利用率は98%という驚きの事実が判明しました。この調達の領域は、製造業全体の生産性向上におけるボトルネックになっているのです」
吉田氏はこのボトルネックを、製造業のDXを阻む構造的な課題としても挙げる。
「例えば、部品点数1500の装置を設計する際、部品を手配して組み立てていくプロセスの中で必要になってくるのが紙の図面です。これを1枚1枚作成するのに時間かかる。そして見積もりの手間もあります。
5社~10社に相見積もりを依頼する時間に加えて、回答までに平均1週間の時間がかかります。実際に発注した場合にも、納期までの時間がかかる。このような流れで、部品の調達という領域だけで1000時間ほどかかってしまうのが実情です」
38万社あるといわれている日本の製造業において、仮に1社1台上記装置の部品調達をする場合、年間で3.8億時間という膨大な時間が費やされているということになる。これをコスト換算すると、日本全体で年間2兆円を超える経済損失を生み出していることになるのだ。
meviyがもたらす価値創造が製造業を救う
同社はものづくりの現場における最大の価値創造を「時間の創出」と定めた。そこで立ち上げたサービスが「meviy」である。
「meviyは2つの改革、イノベーションの同時実現を目的としています。1つ目は、お客さま側への革新。その核となるのがAI自動見積もりです。顧客は、ソフトウエアで制作した設計データをmeviyのクラウドサービスにアップロードする。そうすると、AIがその形状の特徴を自動で認識し、価格と納期をものの数秒で回答してくれます。これにより紙の図面を作成する手間や見積もりを待つ時間が、ほぼゼロになります」
データのアップロード後は、数量や材質、表面処理、はめあい公差などの指定をする。こうした一連の設定を、ウェブ上で簡単に行え、また見積もり確定後はお客さま専用番号が発行されるので、次回以降はこの番号だけで簡単に注文ができる仕組みとなっている。
「2つ目は、生産側の革新です。これは“デジタルものづくり”とも言える仕掛けです。本来ならば紙の図面が工場に送られ、手入力や手作業などを経るが、meviyの場合はアップロードされた設計データをもとに、直接、工作機械を動かすプログラムを自動で生成して工場に転送をかけます。
つまり、受注と同時に加工がスタートしていくのです。顧客は設計データをアップロードするだけで、即時見積もり最短1日出荷という極めてリードタイムの短い部品調達が可能となります」
同社がmeviyのサービスを本格的に事業展開したのは2019年だが(サービス開始は2016年)、既に利用ユーザーは6万を超えている。導入企業も自動車メーカー、機械、電子、電気、化学、医療など多岐にわたる。
ある大手メーカーでは、部品コストなど直接費約30%のコストダウンに成功。また作図コストなどの間接費のコスト削減も大きく年間2万枚の図面が削減することができた。これにより1.2万時間が生み出され、これは1年間で人員6名分の時間を創出できた計算になる。コスト換算では1.2億円の間接コストの削減に繋がっている。