米議会で開催された公聴会(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 米フェイスブックでは最近、新サービス・製品の市場投入が滞っていると、米ウォール・ストリート・ジャーナルが10月6日に報じた。事情に詳しい関係者が話した。同社のサービスに起因する利用者の健康問題に関する一連のメディア報道や米議会で開催された公聴会が背景にあるという。

「会社の評判に関する調査」

 傘下の写真共有アプリ「インスタグラム」を巡り、心の健康への悪影響の問題を知りながら、13歳未満向けアプリ「インスタグラム・キッズ」の開発を進めているとの批判が高まり、同社は21年9月に同アプリの開発を一時中断すると明らかにした。

 このほかにも複数の幹部が、新サービスや既存サービスについて作業の一部を中断するよう社員に指示した。また、十数人の社員が「会社の評判に関する調査」に関わっている。フェイスブックがどのような批判にさらされる恐れがあるかや、いかにして子どもに悪影響を与えないようにするかを調べているという。

 マーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は10月5日、フェイスブックへの投稿で、全社的に業務内容を深く掘り下げて調べるよう各幹部に指示したと明らかにした。

 その上で同氏は、「我が子を含め、子供たちにオンラインで経験してほしいことについてじっくり考えてきた。我々が構築するすべてのものが、子供にとって安全で良いものであることが、私にとって大変重要だ」と述べた。

ホーゲン氏、退社時に数万の内部資料持ち出し

 フェイスブックが安全対策を取らず、利益を優先したとされる一連の報道の後、米国では議会公聴会が2度開かれた。10月5日には、上院商業科学運輸委員会の公聴会でフェイスブックの元社員であるフランシス・ホーゲン氏が証言。「幹部は安全策を知っていたが必要な改良を行わなかった。利用者よりも、天文学的な利益を優先した」などと批判し、「立法府による措置が必要だ」と議会に対応を求めた。

 ホーゲン氏はフェイスブックで誤情報対策のプロダクトマネジャーを務めていたが、今年5月に退職した。ロイター米ニューヨーク・タイムズによると、その際に数万に上る内部資料を持ち出し、米議会や米証券取引委員会(SEC)やウォール・ストリート・ジャーナルに提供した。その中には「インスタグラムが10代の女性を中心に若い利用者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼす」といった内容の社内調査結果もあったとされる。

 これに対し、フェイスブックは「社内調査の内容は、文脈を無視して解釈されている」と主張。10月5日にはザッカーバーグCEOが一連の騒動が始まって以降初めて声明を出した。同氏は社員宛の投稿で、「批判の中心にあるのは、我々が利用者の安全や幸福より利益を優先しているという考えだが、それは事実ではない」とホーゲン氏の主張を真っ向から否定した。

 フェイスブックの渉外担当アンディ・ストーン氏はツイッターへの投稿で、「本人が宣誓で言ったように、ホーゲン氏は子供の安全やインスタグラム、一連の問題の調査に携わっておらず、フェイスブックでの仕事を通してこのトピックに関する直接的な知識を持っているわけではない。この事実を指摘しておく」と述べ、ホーゲン氏の主張に疑問を呈した。

ホーゲン氏、欧州委員らと会談

 一方、米議会を巻き込んだホーゲン氏とフェイスブックの対立は、欧州に飛び火しそうだと、ニューヨーク・タイムズの別の記事は報じている。

 ホーゲン氏は、米議会での証言の直後に欧州連合(EU)欧州委員会のティエリー・ブルトン委員(域内市場担当)と電話会談を行い、巨大プラットフォーマーによる独占の抑制について話し合ったという。ホーゲン氏は数週間前にクリステル・シャルデモーゼ欧州議員(デンマーク出身)と電話会談を行ったほか、欧州委のベラ・ヨウロバー副委員長ともテレビ会談を行った。

 数週間後にはEUの政策立案者と対面で会談し、SNS(交流サイト)規制案について協議する。英議会でも証言する予定。11月1日にポルトガルのリスボンで開幕する欧州最大級のテクノロジーカンファレンス「Web Summit(ウェブサミット)」で講演することも決まっているという。

「デジタルサービス法」と「デジタル市場法」

 欧州委員会は20年12月、米国のテクノロジー大手を念頭に置いたデジタル規制法案を公表した。「デジタルサービス法」と「デジタル市場法」の2つからなるもので、20年前に制定した現行法の大幅改正を狙っている。

 「デジタルサービス法」は、EU域内人口の約10%にあたる4500万人以上の利用者を抱えるオンラインプラットフォームを対象にする。違法なコンテンツや商品、サービスの迅速な削除などを義務付け、利用者ごとに異なるネット広告には、その表示基準の開示も求める。「デジタル市場法」は、自社製品・サービスの優遇などを禁じたり、企業を買収する際の事前通知を義務化したりと、巨大テックによる競争阻害行為の抑止を狙っている。

 前者のデジタルサービス法には、ホーゲン氏が今回米議会証言で求めたような「透明性の確保」が盛り込まれている。フェイスブックなどのテック大手に、サービスやアルゴリズム、コンテンツモデレーション(掲載内容のチェックと削除)などの手法に関する詳細の開示を義務付けるものだ。誤情報やヘイトスピーチの拡散に関するリスク評価を定期的に実施するよう求める可能性もある。

 ホーゲン氏の見解が根拠となり、これら欧州の新法が、フェイスブックなどにとってより厳しいものになる可能性があると専門家は指摘している。

 (参考・関連記事)「英・EU・米、GAFA念頭にあの手この手の規制策