BNPLの可能性

 このようなBNPLが日本でも広がるかどうかは未知数です。日本はもともと、(住宅ローンは別として)「住宅以外のモノを借りたお金で買う」というカルチャーが希薄であり、「お金を貯めてからモノを買う」のが当たり前という国です。他の国にはあまり広がらない前払いチャージ式の電子マネーが日本ではかなり普及しているのも、このようなカルチャーの表れかもしれません。こうした事情は、日本に在住歴のあるKlarnaの幹部も熟知していました。

 とはいえ、海外諸国におけるBNPLの広がりは、いくつかのヒントを与えてくれるようにも思います。

 まず、ネットで普通に買い物をするデジタル時代には、それに合ったサービスを金融側でも考えていく必要があることです。「身に着けてみないと本当に欲しいかどうかわからない」というモノの購入や、「見ず知らずの業者に重要な情報を渡したくない」といったセキュリティのニーズを満たす支払手段を考えていくことは有益でしょう。

 また、従来の貸借対照表や損益計算書、担保価値などのデータに加え、購買履歴などのデータをいかに金融面でも活用していけるかが、デジタル化時代の金融サービス業発展の鍵になるように思います。とりわけ、企業の資金調達において直接金融などの選択肢がますます広がっていく中、金融機関が個人向けの金融サービスを充実させていく上では、個人のセキュリティに留意しつつ、個人の行動に関連する情報やデータをいかに入手し活用できるかが重要になります。この観点からも、BNPLなど新しい金融サービスの動向を注視していく必要があるように思います。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。