日本でも、「包摂」という課題にどのように対応するかが、大きなポイントになるでしょう。日本は、コロナ禍での10万円の給付金も、デジタルが使えないとなるや手作業で何とか配れてしまえる、他国では信じられないほどマニュアル事務水準の高い国です。一方で、そのことがしばしば、「いざとなれば人海戦術で」という発想を通じて、デジタル化を遅らせる方向に働いてきた面も否めません。

 デジタル庁は「誰一人取り残さないデジタル社会」を目指すとしています。これが、「デジタルとマニュアルの複線対応の濫発」というコスト増の方向ではなく、「全ての人々がデジタル媒体を使えるよう丁寧に導く」という方向に進むよう、期待したいと思います。

デジタル化のメリット・インセンティブを作り出す

「デジタル・マニュアルの複線対応」のもう一つの問題は、わざわざデジタル化するメリットを、人々が感じにくくなることです。このようなインセンティブ問題は、至る所でデジタル化の成否を大きく左右します。

 例えば、国民IDカードの主な用途が紙の書類(戸籍謄本や住民票)の入手であり、いくらIDカードを持っていても、各種申請(パスポート取得)には結局紙の提出が必要であれば、人々はIDカードをわざわざ持つ必要を感じにくいでしょう。デジタル化を進めたいなら、「IDカードを持っている人はそれを提示すれば良く、別途紙の提出は不要」という制度にする必要があります。人々が「デジタルの方が明らかに便利」と感じないと、デジタル化はなかなか進みません。

 前述のエストニアは、この点を強く意識し、「99%の行政手続が、自宅に居ながら24時間365日、オンラインで可能」という制度を作り上げることに注力しました。このような姿を実現するためには、技術云々よりも、紙の提出をもはや不要とする制度や慣行の見直しが重要となります。

©️E-Estonia