紙幣の供給制約とデジタル化
ペトロが発行された2018年には、ベネズエラ政府はハイパーインフレーションの進行の中、当時の通貨ボリバル・フエルテの10万分の1のデノミネーションを行い、新たに「ボリバル・ソベラノ」を発行しています。
もっとも、その後もインフレーションは鎮静化せず、2021年8月、ベネズエラ政府はさらに100万分の1のデノミネーションを行い、「ボリバル・デジタル」という、「デジタル」という名を付した新たな通貨を発行することを公表しました。
このように、ベネズエラ当局が「デジタル」を繰り返し喧伝する背景には、紙幣の供給制約も働いていると考えられます。
日本では紙幣は国立印刷局で製造していますが、海外では、今や多くの国々が紙幣の製造を民間企業に委託しています。そうした企業の中でも有名なのが英国のDe La Rue社です。De La Rue社はベネズエラからも紙幣の製造を請け負っていましたが、経済制裁の下でベネズエラ当局はDe La Rue社への支払いを履行できず、同社は多額の損害を被ることになりました。
そうなると、ベネズエラ当局は紙幣の製造をDe La Rue社に委託できなくなくなり、限られた紙幣の供給能力の範囲内に紙幣の需要を抑える必要に迫られます。ベネズエラ当局の「デジタル化」の喧伝も、実は紙幣の不足を凌ぐためという面が大きいと考えられます。