ハイパーインフレーションと「ペトロ」
豊富な石油埋蔵量で知られるベネズエラは、かつては産油国として中南米でも豊かな国として知られていました。しかし近年では、財政赤字の増加などを背景に通貨への信認が低下し、ハイパーインフレーションが進んでいます。
ハイパーインフレーションの進行に伴い、経済の停滞も目立っています。
このような厳しい状況の中、ベネズエラのマドゥロ大統領は2017年12月に暗号資産「ペトロ(Petro)」を発行する方針を発表し、2018年2月20日に発行に踏み切りました。
ペトロの発行に際し、ベネズエラ当局は「ホワイトペーパー」(政府が作成する報告書。白書)を公表し、ペトロがベネズエラの豊富な石油資源を裏付けにしていると強調しています。そのうえで、ブロックチェーンなどの新しいデジタル技術の活用によるデジタルエコノミーの振興などの目的を喧伝しています。一方、ペトロが石油と兌換可能かどうかについては記述がありません。
ここからみて、ベネズエラによるペトロ発行の真の目的は、自国通貨ボリバル・フエルテ(当時)がハイパーインフレーションで信認を失う中、目先を変えた通貨を発行することで、物資調達のための購買力を確保することにあったと考えられます。もちろん、海外諸国もそう捉えますので、ペトロでの対価の支払いに応じるはずはありません。結局ペトロは対外的な取引には使われず、ベネズエラ当局が公務員給与の支払いや行政関連手数料における強制的な利用などを通じて、国内に無理やり流通させるにとどまっています。現在、国内で現在最も使われているのは、自国通貨やペトロではなく、米ドルとなっています。