安全対策の抜け穴

 テスラのオートパイロットを巡ってはこれまでにも様々な問題点が報告されていた。21年1月には、米民主党のエドワード・マーキー上院議員が、オートパイロットの名称が誤解を招くとして、変更を要請したと報じられた。オートパイロットは完全自動運転ではなく、ドライバーが運転を監視する必要がある。テスラも運転マニュアルで、ハンドルに手を添え、常に前方を確認するよう注意喚起している。だが、中にはハンドルに重りを取り付けるなどしてオートパイロットの安全対策を無効化し、手放しで運転を続ける人もいるという。

 ニューヨーク・タイムズによると、オートパイロットは一定の間隔でハンドルを軽くたたくと作動し続けるという抜け穴がある。同紙は、テスラのアプローチは、米ゼネラル・モーターズ(GM)などの他のメーカーのそれとは全く異なると報じている。GMが一部の車種に搭載している運転支援システム「スーパー・クルーズ」は、赤外線カメラで運転手の視線を監視。注意散漫の兆候を検知し、警告を発する。GMは、GPSを使ってシステムの使用を主要な幹線道路に限定している。テスラも幹線道路でのみ使用するように呼びかけているものの、同社のシステムは幹線道路以外でも利用できるとニューヨーク・タイムズは報じている。

3月の死亡事故、オートパイロットとの関連不明

 21年3月17日の夜、テキサス州ヒューストン近郊で高速走行していたテスラ車が道路から逸れ、木に衝突して炎上した。乗車していた男性2人は死亡した。地元警察によると、2人は助手席と後部座席で遺体となって発見された。事故当時、運転席には誰もおらず、オートパイロットを使っていた可能性があると指摘された。この事故を受け、NHTSAと米運輸安全委員会(NTSB)が調査した。

 その後、NTSBはオートパイロットの1つの機能である自動操舵が作動不可能な状況だったとする初期調査結果を公表した。NTSBによると、オートパイロットは、「自動操舵機能」と「交通量感知型クルーズコントロール機能」で構成されている。前者は左右の走行方向を制御、後者は速度と前方車との距離を制御する。NTSBが事故現場で同じモデルの車両と同じソフトウエアを用いて状況を再現した結果、前者の自動操舵機能は事故現場では使用できないことが分かった。一方で、クルーズコントロール機能は作動していた可能性があると報告した。

 これを受け、テスラのイーロン・マスクCEOは「オートパイロット作動に必要となる路面の車線表示がこの道路にはなかった」と述べ、事故とシステムの関連を否定したという経緯がある。

 米メディアによると、米国はこれまで運転支援システムに対する規制が緩かった。今回の調査をもっと早くから実施すべきだったと指摘されている。各メーカーに対し規制権限を持つNHTSAが監視を強化すべきだという意見も多く聞かれると、ウォール・ストリート・ジャーナルなどは報じている。