※本コンテンツは、2021年5月27日に開催されたJBpress主催「第1回 総務・法務イノベーション」の特別講演Ⅲ「ビジネスの成功に寄与するために、ネスレ日本の法務部が取り組んでいること」の内容を採録したものです。

ネスレ日本の企業法務に求められるものは何か?

 ネスレは売上高約10兆円、2000を超えるブランドを世界に展開する世界最大の食品飲料会社です。社員数は27万人。スイスの本社では、数百人の弁護士が働いています。

 日本法人であるネスレ日本の法務部は社長直下の組織で、主には契約書作成・審査法律相談などの一般的な法務業務に加え、コンプライアンス関連業務、個人情報保護関連業務を担当しています。法務担当者は私を含めて7人ですが、弁護士資格を持っているのは2人のみ。大半は社内の別の部門から異動してきたメンバーです。

 会計、マーケティング、営業、エンジニア、品質保証など、それぞれ経験してきた担当業務は異なり、その結果、ダイバーシティが形成されています。弁護士はあくまで法律の専門家であり、弁護士資格を持っているだけでは、社員がどのような仕事をしているか、どんな思いで働いているかは分かりません。企業法務の組織をつくるためには、ダイバーシティの視点が非常に重要になるわけです。

 法務部は、会社からガーディアン(守護者)としての役割を求められてきました。特に上場企業はコンプライアンス事案が会社の評価や株価に影響を与えることから、その役割は大きいといえます。

 しかし他方で、法務部には「ビジネスの成功を実現させる」という役割も課せられています。ビジネスパートナーとして事業部をガイドしたり、時には ビジネスリーダーとして事業部をけん引したりする役割も求められているのです。

 その上で重要な視点は、その会社自体が持つ属性によって、経営陣から求められる機能が異なるということ。例えば、当社の場合は「非公開会社」「外資系」「食品会社」という属性を持つため、法務部が一部上場企業をイメージした法務の取り組みを実施しても、大した貢献はできません。属性から法務の目指す姿をイメージし、そこから逆算しながら手段とプロセスを考えていくことが、企業法務には求められています。