デジタルマネーと国際銀行規制
バーゼル委員会は9月10日までの3カ月間でこの案に対する市中からの意見を集め、最終的な案を決めていくことになります。
暗号資産に対処する上で常に頭の痛い問題は、公的当局がどのようなアクションを起こしても、とかく「だから暗号資産は値上がりする」、あるいは「当局は暗号資産を潰そうとしている」といったネットの書き込みなどの材料に使われやすいことです。
バーゼル委員会は今回の案の公表に際し、「我々の枠組みは技術的中立性(techonology neutrality)に基づいており、暗号資産の特定の技術を後押し(advocate)するものでも、抑制(discourage)するものではない」と強調しています。これは、まさにバーゼル委員会の本音だと思います。上記のような論争に巻き込まれることは、委員会の最も望まないことだからです。
私が属していた組織ということでひいき目もあるかもしれませんが、バーゼル委員会は、真摯にリスクへの対応を考えている職人集団です。今回の案も、暗号資産を後押ししようとか、逆に潰そうといった意図に動かされているわけでは全くないと感じますし、リスクウェイトについての考え方も、銀行が持つ他の資産への対応と概ね同じです。
今回の案をもとに、デジタル化されたさまざまなアセットのリスクについて、冷静な議論が行われていくよう期待したいと思います。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。