協調のヒント②「既存の枠に囚われない発想を大事にする」
オニワラでは視聴者からもコメントを受け付けているのだが、そのなかでヤマハの大村氏の発言が注目を浴びていた。
それは、IBM基礎研究所の福田剛志氏が前述5in5の事例で、環境負荷の少ない半導体やスマホの重金属代替素材について紹介したことに注目し、
「新たなゲームルールを作るためにも、使えば使うほど環境に良い材料が開発されるといいですよね」
という発言だ。
地球のことを考えると3R(リデュース・リユース・リサイクル)のように再利用や削減ばかりに目が行きがちだが、テクノロジーやサイエンスの進化により、使えば使うほど地球が喜ぶような素材が開発されればメーカーのヤマハとしてもとても喜ばしいと述べる。材料そのものをクリエイティブに見直すというアプローチをとると、新たなステークホルダー間の協調が生まれそうである。
また、協調のヒントとしては音楽そのものに注目することもできる。
大村氏は「長年、国内外での音楽教育にも携わっていると音楽が持つ能力に驚かされることが多いです。コロンビアのスラム街に生きる子供達に『I'm a HERO Program』という音楽教育プログラムを提供した際に、子供達がポジティブに変わっていくのを目の当たりにしました。人間が変わっていくところに音楽の力が存在すると感じています」と語る。
ヨーロッパではコロナのロックダウン中に市民がベランダで歌いながら励ましあったり、レディー・ガガやローリング・ストーンズなどの著名アーティストがオンラインライブを提供したりすることにより、社会全体が前向きになれた経験が今も色濃く残っている。辛いとき、未知なる課題に立ち向かうとき、ビジネスシーンであろうとも、社会課題であろうとも、音楽とともに向かっていくと様々なステークホルダーと協調して立ち向かっていけそうである。クロスポリネーションは企業間だけではなく、今までなかった手法を掛け算することも大事なのかもしれない、と思わせてくれる大村氏の発言である。
当レポートの締めくくりとして登壇者各位が座談会最後に述べた「協調のヒント」をお伝えする。このヒントを元に、ぜひ読者各位の中でも自分が考える「協調のヒント」は何なのか?との問いを立て続けて欲しい。
登壇者各位に聞く「協調のヒント」とは?
IBM 理事 基礎研究所 所長 福田 剛志氏:
当座談会に参加するまでアーティストである井口さんが述べた「バイオフィリック・デザイン」を存じ上げなかったのですが、知ることによりその価値を発見できました。人間は経済合理性だけで動くものではなく、心が動くところが行動動機となります。価値を感じ、その価値がマーケットを作り、企業がそのマーケットで経済合理性に基づいて動いていく。音楽やバイオフィリック・デザインからマーケットを作り、企業が価値を作るようなことも起きると感じています。協調のヒントとしては、新たな価値観を生み出し、マーケットを変えて、企業の行動を変えることにあるのではないでしょうか?
ヤマハ株式会社 執行役員 大村 寛子氏:
協調のヒントはMAKE WAVES!です。これはヤマハのブランドプロミスでもあるのですが、心が震える瞬間を作り、変化を起こす波風をたてる。変化を起こしてルールを変える、そこに新たなステークホルダーを巻き込んだ協調があると考えています。
エコロジカルアーティスト GIVE SPACE ファウンダー 井口 奈保氏:
ゲームルールを変えるためには固定観念を手放さなければなりません。今の自分のアイデンティティーを手放し、違うものに変えていく。土地は当然、人間のものだと思い込んでいたものを、「そもそもこれは誰のものなのか?」と、問いかけることはアウト・オブ・ザ・ボックス・シンキングにつながります。自分が葛藤し、怖いと思うものを手放していければ、新たなゲームルール、ベンチャーの種にもつながっていきます。自分のアイデンティティーを手放すのは難しいけれど、「問い」を立てるところから始めるのは一つの手です。
IBM 執行役員 藤森 慶太氏:
課題に立ち向かうための協調にはエコロジカルアーティスト井口さんが語るスピリチュアルなアプローチ、大村さんの語る音楽の力、どちらも必要だと思います。今日の座談会を行う前までは協調のヒントは「融合」かと思っていたのですが、必ずしも融合だけではないのかもしれない、と思い始めています。融合の前に、まずは今まで交わってない相手の思いや知見を「知る」ということが大事だと感じました。違う価値観、違うアプローチを知り、それを新たな事業の種と考えていくべきなのではないかと考えています。そして、もう一つの協調のヒントは、積極的に「絡んでいく」とも思っています。ビジネスゲームを行政だけに任せていてもうまく回らないことをコロナにより大きく気付かされたので、行政(ルール)・経済(企業)・社会(個人)が三位一体で大きな課題にも協調して取り組んでいくべきで、前述の三菱重工とのCO2NNEXのようにIBMはその三位一体の取り組みのトラッキングの仕組みなどでも貢献できるのではないかと考えています。
オニワラ座談会を共催しているIBM Future Design Lab.では「経済一辺倒の社会でいいのか?」という「問い」を立て議論している。IBMというテクノロジー・ビジネスのビッグ・プレイヤーが、新たな社会に向けての問いを立てていること自体も新たなゲームルールを生み出すプロセスだと考える。アーティスト井口奈保氏の言う「問い」を続ける、その結果としてアイデンティティーを手放すという勇気を持つことも協調の一歩なのかもしれない。
全貌が気になる方はアーカイブ動画とIBMデザイナー山田龍平氏のグラフィック・レコーディングもチェックして欲しい
・アーカイブURL https://youtu.be/P9Km1PDmYQk