ビジネスのデジタル化が加速し、ITシステムが多様化した現在、情報システム部門が抱える課題は多岐にわたっている。一方、日本企業のDX推進は待ったなしの状況を迎えており、変革の担い手不足も指摘されている。こうした状況だからこそ、企業の情報システム部門の変革との向き合い方、部門自体のあり方が変革実現のキーファクターになるのではないだろうか。
企業のビジネス変革の成功を目指すにあたり、情報システム部門に求められる視点や考え方について、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)代表 横塚裕志氏に話を聞いた。
DXはビジネスモデルを根底から変える取り組み
――近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業が増えています。そうした中、情報システム部門に求められる役割は変化しているのでしょうか。
横塚氏 デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)では、DXを「本格的なビジネスモデルの変革を進めること」と定義づけています。例えば禁煙化の流れにあるタバコ業界では、世界有数の企業であっても生き残りを賭けて電子タバコなどの製品開発やビジネスモデルの改革に取り組んでいます。トヨタ自動車でさえも、危機感を持って改革を進めています。自動車製造業から移動サービス業(MaaS)にシフトしなければ、近い将来に自社のビジネスが立ち行かなくなると考えているからです。
その観点から言えば、古い基幹システムの刷新といったことは、確かに課題ではありますが、DXとはまったく別の話です。経営者はもちろん、情報システム部門の人間も含めて企業が考えるべきは「コーポレートトランスフォーメーションをどうするか」であり、それがDXにおける最大のテーマでもあります。
既存のビジネスモデルのまま、ITで少しだけ便利にすることも否定はしませんし、それはそれで取り組めばよいことです。ただし、DXに本気で取り組むつもりなら、10年先を見据えて、自分の会社がどの程度の輝きを失う可能性があるのかと危機感を持つことが大切です。
――日本の上場企業を見渡しても、情報システム部門が組織と一体となりビジネス変容にまで取り組めている企業は、本当にわずかとも言われています。なぜDXが進まないのでしょうか。
横塚氏 うまくスタートを切れているのは、強い危機感を持てている企業です。特に印刷や電力、自動車のように業界自体が大きく変化しているところは、危機感を強く持つことができます。しかし、実はすべての業界で危機が迫っています。
私が以前いた保険業界だってそうです。自動運転で事故が減るとなれば、ビジネスは大きく変わります。時代は変わっていくので、この先も順調に続く産業なんてないですよ。ところが、2~3年程度の短期間だとそれほど縮小するように見えないから、なかなか着手できずにいます。経営者が「自分の任期中ならまだ大丈夫だ」と考えてしまうと、今すぐ変えようとは思いませんよね。