(外山 遊己:電通デジタル ビジネストランスフォーメーション部門 プランニングディレクター)
DX推進の壁となっている3つの課題
街中をフードデリバリーの自転車が走り回ることが当たり前となり、ネットショッピングでこれまで買うことがなかった生鮮食品や日用品を買う。仕事でも、自宅から会議に参加し、営業活動をWebやメール経由で行う在宅やテレワークがどんどん増えています。新型コロナウイルス感染症の流行により、私たちの日常は1年前には全く想像できなかったほど、大きく変化しています。そして、この変化はいつまで続くのか、この先さらにどのように変化していくのか、誰にも分らない状況です。
このような生活者の変化に合わせて、企業側のデジタル対応であるデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)も加速しています。
電通デジタルが2020年9月に実施した「日本企業のデジタルトランスフォーメーション調査2020年版」(以下「DX調査2020」)では、新型コロナの流行によって「DX推進の取り組みが加速した」と回答した企業は半数に上りました。コロナ禍において、急速に進んだ新たな生活様式“ニューノーマル”への対応として、企業のDX推進は今まで以上のスピード感が求められていることが伺われます。
しかし、DXの必要性は理解しつつも、思い通りに進められない企業が多いことも事実です。一体なぜDXを進められないのでしょうか。
「DX調査2020」では、DX推進の障害となっている主な課題が見えてきました。本稿ではその中から「人材不足」「組織の壁」という課題を取り上げ、その課題に対する実際のアプローチの具体例を通して、DXをスピーディーに進めるためのポイントを紹介します。そして、いずれのアプローチにおいても「経営層のコミット」がきわめて重要であることを提示します。
【1】「デジタル人材不足」~人材育成や内製化への課題とアプローチ
「DX調査2020」では、DX推進上の障壁として「スキルや人材の不足」が「投資コスト」を初めて上回りトップとなりました。さらに、その人材不足の具体的な内訳をみると、「自社内で育成を担える人材が乏しい(33%)」を筆頭に、社内での育成、新たな採用だけでなく、デジタル人材の不足による課題は多岐にわたっています。
企業のDXの推進度合い、状況によってデジタル人材のニーズは異なりますが、コロナ禍でDX推進や顧客対応によりスピードが求められるようになった昨今、これまで外注や外部パートナーとの協業によって実施していたデジタル施策やマーケティングを自社で内製化することでスピードアップしたい、というのは各企業共通のニーズです。