データ民主主義とデータのオープン化

 データは、オープンに使われ、民間を含む幅広い知恵によって活用されてこそ、その効果を最大限に発揮できます。

 台湾がCOVID-19の感染拡大を封じ込めることができた背景としては、データを極力オープン化し共有した上で、民間の知恵を集めたことが指摘されています。例えば、政府がマスクの在庫状況をオープンデータで提供し、このデータを活用して民間企業がアプリを開発することで、マスク不足に伴う混乱などを未然に防ぐことができたわけです。

 データ・ローカライゼーションに問題があるからといって、データの集積を進める巨大企業を放置すべきということではありません。しかし、この問題への対応も、「各国がデータを囲い込んで海外企業に使わせない」ということではなく、「データの使い方を透明にする」「それぞれの人が自分のデータの不当な利用を止めたり、データを取り戻せる」ことが望ましいと言えます。

 このためには、「データ民主主義」ともいえる、今の時代に即した新しいデータのガバナンスを考えていく必要があります。例えば、各人が、自らのデータが他者によってどう使われているかをトレースでき、不当な利用には是正を求めることができ、さらには取り戻すことができるなどです。

 IT化、デジタル化を考える上でデータの問題は避けては通れません。データの「囲い込み合戦」がデジタル化の果実を損なわないようにするためにも、データに対する権利とガバナンスの問題への取り組みが求められます。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。