例えば、近年、電力の供給市場は世界的に自由化が進んでおり、ユーザーは複数の供給主体の中から、その時々の状況に応じて供給者を選び、電力を買うことが可能になっています。このような電力自由化は競争の促進や発電能力の有効活用、コスト削減などに寄与すると期待されています。もっとも、経済がこれらのメリットを十分に享受していく上では、「電力の購入量に応じた対価の支払い」を効率的に行えるかどうかが鍵になります。この点、スマートコントラクトを活用すれば、電力と引き換えに対価を支払うことが、技術的には可能になるわけです。

電力取引とスマートコントラクト
出典:デジタル通貨勉強会報告書(2020年)

 同様に、「工場への部品の納入」「コンビニエンスストアへの商品の納入」「モノの輸送」などと同時に自動的に支払いを行ったり、人々のボランティア活動やルールに沿ったゴミ出しなどに応じて地域通貨を自動的に賦与するなどのスキームも考えられます。これらの例については、以下のウェブサイトに掲載されている「デジタル通貨勉強会報告書」に記載されています。ご関心のある向きはご一読いただければ幸いです。

https://news.decurret.com/hc/ja/articles/360059491353

スマートコントラクトの課題

 もちろん、このようなスマートコントラクトの本格的な実用化までには、なお多くの課題が残されています。

 2016年、「スマートコントラクトを用いて自動的に投資を行う組織」として、海外で“The DAO”という仕組みが生まれました。“DAO”とは、「分散型自動組織」(decentralized autonomous organization)という意味です。しかし、この”The DAO”は、プログラムの不備を突いたハッカーの攻撃を受け、資金の流出と消滅を余儀なくされました。この事例を踏まえても、スマートコントラクトを実用化していく上では、その技術的な堅牢性に加え、法的な拘束力の確保や、損失が発生した場合の責任やリスクの分担ルールなどの確立が重要な鍵となります。

 スマートコントラクトの法的な課題は、多岐にわたります。

 例えば、日本法における契約の成立は、申込と承諾という、人間の「意思」の合致によるとされています。したがって、プログラムが自動的に行う取引について、どのような意思の合致があると考えるかが一つの論点となります。