「やりやすい/やる気になる場づくり」の1つとして、「技術者の砂場づくり」をお勧めしたい。砂場を研究開発現場のアナロジーとすると、そこには技術者が自由な発想で成果を出すための行動・環境を見いだすヒントがたくさんある。ここで"場"としての砂場の特徴を整理しよう。

(1)外から丸見え:どんな子供が遊んでいて、どんな遊びをしているかは丸見え。何も遮るものはない。

(2)誰でも出入り自由:そこに入りたい子供は誰でも入ることが自由(他の子供に危害を加えない限り)。

(3)簡単な道具で、自分がつくりたいものをつくる:砂場に高価なおもちゃを持ち込むことはない。スコップやバケツなど簡単な道具で子供は楽しく遊ぶ。山をつくったり、トンネルを掘ったり、子どもは自分のつくりたいものをつくる。

(4)他の子の遊びが面白そうだと一緒に遊び始める:隣の子供が何をして遊んでいるかは丸見えなので、そこでの遊びの方に興味を持つとその遊びに加わることも自由(その子に嫌がられることもあるが)。

(5)親は近くにいて、自由に遊ぶ子を見守っている:親という漢字は、木の上に立って見ているという意味である。つまり手が届かないところから見ているということ。子供の遊び方に対して、親はいちいち口を出さない。ちょっと離れたところから見守っているが、すぐに行ける距離感が大事。子供が一人で遊んでいれば一緒に遊んであげたりもするが、遊び方に対して指図することはない。

(6)親は見守るだけではなく、時には手をかけてあげる:ずっと同じことで遊んでいると飽きてきたりもするが、少し手を貸してあげるとまだ遊び始める。水を掛けてあげたりすると、団子をつくったり、泥遊びを始めたりする。ちょっとした手の加え方でまた新たな遊びを見つける。

(7)遊ぶのに大きなお金はかからない:スコップやバケツなどは大したお金はかからない。お金をかけて何かを買ってあげなくても、どこか遠くに連れて行かなくても、子供は楽しく遊ぶことができる。

 このような場が"砂場"であり、好奇心を持った幼児や児童が楽しく創造性を発揮する場なのだ。これを研究開発現場に適用し、創造性を発揮できる環境をつくり、自由に遊ばせることが「砂場マネジメント」である。実際にこれをうまく運用して成果を出している企業はまだ少なく、誰に適用するかが、最も重要な仕掛けだ。そこを見極めて運用を徹底できれば成果に結び付くはずである。

 もう一つの「鍛える場」として、Off-JTのMOTプログラムのようなものも有効だが、もっと大事なことは現場で技術を議論する"場"である。研究開発の現場では、他の人がどのような研究開発をしているか知らないというように、"たこつぼ化"しているケースがよく見受けられる。このような現場では技術者は鍛えられないし、新たな知は生まれにくい。

 他の技術者に自分の考えをぶつけたり、他の技術者の発想を取り入れたり、思いっきり否定されたりすることを通じて技術者は鍛えられ、それが新たな知を生み出すきっかけとなる。最初は他人のテーマに関心のなかった技術者でも、いったん議論の楽しさを知れば徐々に議論に加わるようになる。いろいろな場面で技術に関する議論をする空気が生まれ、より議論が活発になっていく、このような場をつくることが研究開発部門のリーダーの重要な役割である。