今後求められる技術人材とは?
JMAC(日本能率協会コンサルティング)とJMA(日本能率協会)はこの課題に取り組むため、2013年から14年にかけて「技術者育成担当者勉強会」を実施した。この勉強会には日本を代表する大手製造業約20社の技術者育成担当者が集まり、「今後求められる技術人材」「イノベーションを起こす人材育成」などについて各社の育成事例紹介とディスカッションを行った。
このときに「今後求められる技術者に必要なスキル」を整理した結果、次の4つのスキル領域が挙げられた。
①ヒューマンスキル
(コミュニケーション能力、自主性、自律性、ネットワーク構築力、環境変化への柔軟性、グローバル対応能力など)
②専門スキル
(固有技術、専門知識、設計力、仮説構築力、検証力など、市場、顧客ニーズのくみ取り力など)
③事業化推進スキル
(ビジネスモデル構築力、オープンイノベーションマインドなど)
④マネジメントスキル
(経営知識、管理能力、リーダーシップなど)
技術者のベースとなる固有技術のような専門スキルに重点があることは従来と変わらない。また、ある程度の階層になってくればマネジメントスキルが必要となることも従来と変わりないという結果になった。
従来と異なって強調されていたのが、③の技術イノベーションを事業につなげる事業化推進スキルである。R&Dを起点にして新たな価値の創出や新事業を創出するには、事業化推進スキルを持った人材が必要なのは言うまでもない。日本の製造業は「技術では勝っていても事業で負ける」「いい技術はあるのになかなか新事業が生まれない」などと言われているため、マーケティングや事業化に長けた技術者を増やしたい、という方向に向かっている企業が多い。
勉強会の中でも、事業化スキルの習得を育成するプログラムとして、各社で内容は異なるものの、「MOT(Management of Technology)プログラム」を実施している企業は非常に多かった。確かにJMACにもそのような相談を受けることも多く、実際に支援も行っている。
しかし、それを技術者に期待することが本当に正しいのだろうか。もちろん、マーケティングや事業化に関する基本的な知識は知っておいて損はない。事業化を進めるチームとしてそれに長けた人は必要だが、技術者にそこまで負わせることが本当によいかは疑問である。そちらに注力するばかりに、本来の技術のイノベーションが起こらなくなっては本末転倒だ。
では各社が、技術者が技術でイノベーションを起こすような教育を行っているのかというと、基礎的な教育は非常に充実しているが、中堅以上の技術者に向けた教育講座は持っていなかった。革新的な技術を生み出す技術者の育成については、「技術者個人任せ」という企業が多いのが実態であった。