イノベーションを起こす人材を育てるには

 それでは、どうすればこのようなイノベーションを起こせるスキルを持った人材を育成できるのだろうか。

 勉強会では、各社で実在する(した)イノベーションを起こしてきた技術者の実例をもとにその特性を整理した。

 これを見ると「心の持ち方」「人間性」「思考特性」「行動特性」として挙げられた要素は、元来その人が持っている資質であり、これらをいかにして伸ばすかが重要なことが分かる。

 これらの要素を伸ばす(あるいは開発する)には、育成というより、その人が持っている特性を磨いたり、発見したりする"場"や"仕掛け"が大きな役割を果たす。各社で行われているMOTプログラムのようなものは、そうした"場"や"仕掛け"の一つと考えられる。仮想的なテーマを設定して、新事業の立案を検討したり、それを異分野の人と議論したりするなど、さまざまな障害を乗り越えて提案して、事業化へと持っていく――事業化推進スキルを磨くには有効な場である。

 一方で、事業化につながる革新的な技術を生み出す技術者を育成するための"場"や"仕掛け"はどうだろうか。技術者の現場を見てみると、ひと昔前のように自分の研究開発を自分の裁量で自由にできる時間を持つことができる現場はかなり少なく、あるとしても有効に使えていないケースが多い。

 それは経営サイドにも余裕がないためである。研究開発投資に対する目先の成果を求める傾向が強くなり、自ずと成果創出のための管理を重視する傾向も強くなる。そうなると技術者は"短期思考"になり、大きなイノベーションにつながるような研究開発テーマには取り組みにくい状況になってしまう。もちろん、志の高い技術者はそのような状況でも革新的な研究開発テーマに取り組むだろうが、全員が全員そうではない。

 現場がこのような実態にある中で、革新的な研究開発テーマを設定して成果を創出していくためには、

①もともとイノベーターとしての特性を持った技術者にとって、「やりやすい/やる気になる場」をつくること

②やる気はあるがやり方が分からない、いい方法が見つからない人に対して、「鍛える場」をつくること

が重要である。