さらにWebExやZoomなどデジタルのウェブ会議システムでの画一的なデジタル空間が社内コミュニケーションのプラットフォームになり、会社組織としてリアルな場でのイニシエーションや成功体験の共有の機会が少なくなることで会社が社員に提供する「従業員体験(EX)の劣化」に懸念の目を向けなくてはならない。

「従業員体験(EX)の劣化」は経営の意思に共感し「自分ゴト化」できる社員の減少、「働きがい」(会社に自発的に貢献したいと思う気持ち)の低下、「チームビルディング」(チームでより高い目標にチャレンジしようという前向きな意欲)の衰退につながる。

「ブランドアイデンティティ」が希薄化し、同時に「従業員体験(EX)」が劣化した組織が行き着く先は詰まるところ、組織としての「求心力の低下」であり、優秀な人材の流出が企業の競争力の低下に直結するにはさほど時間がかからないと推察される。

 AI、IoT、5Gの最先端テクノロジーが生活に溶け込み、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進行する中で、現状維持かそれを下回るパフォーマンスしか期待できないことは、企業にとって衰退や市場からの退場を意味するのだ。

「組織としての求心力低下」を避けるには?

 それでは「求心力の低下」を避けるために企業が意識して取り組むべきことは何か?

 短期的には、企業の経営者が変化に晒される社員の気持ちに寄り添い(Empathy=共感がキーワードである)、経営者自らの言葉で経営方針を発信することだ。新型コロナの危機を正面から受け止め、リーダーとして会社を引っ張る気概や胆力はあるのか。危機の時にこそ、経営者の地金が試されるし、社員の魂に響く言葉だけが社員を奮い立たせるのである。

 そして中長期的な処方箋としては、「インターナルブランディング活動」の反復と実践がカギになる。インターナルブランディングというと、中期経営計画の見直しや周年記念のタイミングで一過性的にしか行われないケースが多いが、この活動を経営主導で通年の活動に格上げする。

 どの企業にも創業者が創業時に抱いた理念や大切にすべきフィロソフィがあるはずだ。また長い企業活動の中で資産としてストックされて来たDNAやファクトも棚卸しして、アフターコロナ時代に何を残し、何を捨て、そして何を付け加えるのかを全社員を巻き込む形で真剣に、かつ継続して議論すべきだ。

 自社の差別化の源泉となるブランドについて真剣に考え議論したり、ストーリーテリングしたりする社員が増えることで、社員間で「自分ゴト化」が進み、「働きがい」を高めるための知恵も生まれ、さらには「チームビルディング」でより高い目標にチャレンジしようという発奮心も生まれてくるのだ。

 参考になるのが、インターネットインフラ大手で、在宅勤務への移行も2020年1月27日と極めて早かったGMOインターネットの取り組みだ。同社が毎週月曜日に開く定例の幹部会(熊谷正寿会長兼社長ほか150人の幹部がZoom上で実施)では社是・社訓に当たる「スピリット・ベンチャー宣言」が幹部社員によるリレー方式で読み上げられる。

 またGMOインターネットでは、従業員間のコミュニケーションの取り方についても、業務上のやりとりだけではなく、雑談や飲み会の実施も推奨される。飲み会も含むウェブ会議ツールはZoom、雑談含む業務用チャットツールはChatwork、仕事の案件管理システムは自社開発のTask Managerと目的別にツールやシステムを使いこなすことでマネジメント職と社員、社員同士でコミュニケーションが活性化する工夫がなされている。

「ブランドアイデンティティ」と「従業員体験(EX)」は組織としての「求心力」をキープし続けるための重要なファクターになっているのだ。

(参考)「GMOインターネット 在宅で先手、会社が変わる」(「日経ビジネス」2020年5月4日)

 経営者の多くは、新型コロナの緊急事態宣言下で痛んだ業績をV字回復させるために、自社の商品やサービスをニューノーマルにいかにフィットインさせるかという形で、どちらかといえばお客さま体験(CX)の再構築の側に目先が行ってしまいがちである。しかし、これは残念ながら一昔前の「株主資本主義」の発想だ。そのこと自体は間違いとは言い切れないが、世界的な流れはコロナ危機が起きる前からESGやSDGsの追い風を受けて、社員を含む「ステークホルダー資本主義」へ急速にシフトして来ている。

 企業としてインパクトがより大きいのは、アフターコロナの「組織マネジメント」をどうするかという、もっと足下の課題であることを経営者は早く気がつくべきである。