また2020年2月には、大日本印刷、パーソルキャリア、富士通が主体となり、丸の内のビジネスパーソンを対象に「副業」の希望者をマッチングするサービスの実証実験を行っている。

 緊急事態宣言後の動向をみると、中小企業が売上の急激な減少の中で社員の雇用を守るため社員の「副業」容認を先行させている。だが、大企業でも冒頭に述べた、ヒト同士が接触する飲食業、観光業、航空、鉄道などの旅客業などの業界では、年単位での給与・賞与減少による優秀な社員の流出を防止する目的で「副業」を積極的に容認するケースが増えることは自然な流れだろう。

社員から見た「半分在宅」「副業」のチャンスとリスク

 それでは、アフターコロナ時代、企業が打ち出す働き方のニューノーマルに潜むチャンスとリスクはどんなものがあるだろうか?

 まずは社員の視点から見ていきたい。

 チャンスについては、「半分在宅」の恩恵で「長く不快な通勤時間」や「参加する必要のない会議」から解放されることによって、仕事の生産性が大きく上がる(個人的に感覚ベースでは30%以上と思われる)。

 効率化によって空いた時間で「副業」が可能になり、「パラレルワーカー」として社員が収入を大きく増やすことが可能になる。

 しかも、バイネーム(by Name:指名)で仕事が舞い込むような特に優秀な社員は「副業」を通じて人脈や自らの評判の拡大という好循環を呼び込むことで、さらに自分自身のブランド力の向上が期待でき、キャリアアップのための転職も容易になるだろう。

 逆に社員の側が注意しなければいけないのは、人事制度、中でも評価・報酬制度とニューノーマルな働き方とのミスマッチ(軋轢)である。

 日立のように「ティール(進化)型」の組織のお手本が身内の米国グループ会社に存在し、なおかつお膝元でも職務の明確な「ジョブ型」の人材管理が定着・浸透していれば、「評価と報酬のものさし」がオープンであることが保証され、会社と社員の間でミスマッチ(軋轢)は起きにくい。しかし、日本の企業の多くは旧態依然としてマネジメント職が部下を管理する「ヒエラルキー(階層)型」のままである。緊急事態宣言下にも売上達成が目標(ノルマ)として残り、さらに悪いことにはリモートワークでマネジメント職と部下の社員の直接的なコミュニケーション量が低下傾向にあるというのが実情だろう。

 社員自身すら自分の持つ本来の力を100%発揮できているかどうか懐疑的な中で、「あいつは副業に精を出しすぎて本業がおろそかになっている」と悪い噂が立つようなことがあれば、その社員の人事評価もマイナス方向にバイアスがかかり、結果として仕事に対するモチベーションも大きく低下してしまうおそれがある。

試される大企業の組織マネジメント

 同時に企業の視点で見た場合にも、働き方のニューノーマルにはチャンスとリスクがある。

 まずチャンスとしては、労働生産性の向上や大部屋型からフリーアクセス型にオフィス環境を刷新することによるオフィス費用の大幅削減など直接的な経済メリットである。

 一方、リスクは何か? ブランドやCX(カスタマーエクスペリエンス)の専門家である著者の視点からは、企業の「ブランドとしてのアイデンティティの希薄化」と社員に対する「従業員体験(EX:Employee Experience)の低下」に最大限、大きなアラートを鳴らしておきたい。

 長く終身雇用を前提としていた日本企業の場合、マネジメント職や先輩社員が若い社員に背中を見せ、半ば暗黙知の形式で「その企業ならではのフィロソフィの実践」や「独特な価値提供のあり方」について時間をかけて伝承してきた。この伝承された無形資産こそがまさに企業の「ブランドアイデンティティ」であり、それを要素別に因数分解したものが「ミッション」や「パーパス 」(企業の社会的な使命、存在理由)、「ビジョン」(ありたい姿)、「バリュー」(組織として大切にする価値観)などである。