生活シーンで広がり始めた手のひら静脈認証

新たな可能性を示す生体認証技術がDXを加速する

JBpress/2020.3.12

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 生体(バイオメトリクス)によって本人であることを認証する技術は、もはや身近な存在となっている。スマートフォンに搭載された顔認証や指紋認証もその一例だが、実はより高度なセキュリティを実現するものとして、手のひら静脈認証もまた生活シーンで広がり始めているという。そこで、同技術領域においてグローバルリーダーの地位を確立している富士通に、最新の活用事例を聞いた。BtoCの局面で手のひら静脈認証はどう使われているのか、他の生体認証技術とは何が違い、どんな可能性を秘めているのかを見ていこう。

パーソナライズ化する生活シーンで
生体認証は不可欠な存在となる

 今やデータ活用によるDXの進展がさまざまな生活シーンに変化をもたらしている。だが個人情報など機密性の高いデータは、堅牢なセキュリティシステムによって守られなければいけない。新たな事業確立に最新のデジタル技術が次々に用いられる一方で、暗号化技術やブロックチェーンなど、セキュリティの領域でも劇的な進化が起きている。これも1つのDX。

「多くの場合、さまざまなサービスを利用する際の入口の部分で、本人だと確認するために認証技術は用いられていますが、セキュリティを優先し過ぎて手続きを過度に複雑にすれば、ユーザーから不満が噴出します。確かなセキュリティを保証しつつ手続きが簡便であること。それが生活者のニーズであり、われわれの課題でした」

 たしかにスマホ使用時はもちろん、キャッシュレス決済や、駅やオフィスをはじめとする施設の入退場などで、現代人は知らず知らずのうちに多くの本人認証ゲートをくぐりながら生活している。サービスを提供するBtoC領域の企業は、確かなセキュリティとともに利便性もまた上げていく必要に迫られている。

「ICカード×手のひら静脈認証」で
馬券購入と払戻のキャッシュレス化を実現したJRA

 2018年9月、JRA(日本中央競馬会)は、キャッシュレス馬券販売の新たなサービスを競馬場およびウインズ(場外勝馬投票券発売所)の一部で開始した。利用者は、新たに設置されたキャッシュレス券売機に、あらかじめ発行しておいた会員ICカード「JRA-UMACA」をタッチし、センサーに手のひらをかざして読み込ませるだけで本人認証を完了。マークカードやQRコードを読み取らせるだけでキャッシュレスによる馬券購入が可能となるサービスである。

 従来の馬券購入では、現金の出し入れによる手間が購入者およびJRA双方に発生していた。そのための対策が会員専用ICカード「JRA-UMACA」の発行と、「JRA-UMACA」専用券売機の設置だった。券売機を通じてカードに「どの馬券をいくら分購入したか」という情報を記録させることで、現金のやりとりばかりでなく、紙の馬券の発行や紛失時の対応という手間も省くことができる。馬券が的中した場合の払戻金もまた「JRA-UMACA」に自動で入金される仕組みだ。

 ただし、銀行のATM同様の金銭授受を実施するシステムゆえ、高度な本人認証技術の導入が不可欠。しかも銀行利用と異なる性質を持つ馬券購入シーンゆえに、暗証番号やパスワードの利用を超える本人認証水準で、迅速かつなりすましが困難な生体認証技術が不可欠。結果的に採用されたのが本人認証はもとより、他者排除率が高い手のひら静脈認証だった。

 競馬という娯楽を提供するJRAにとっては、キャッシュレス決済の利用が進む時代に相応しい新サービスとしての位置づけも大きかったが、他方で独自の事情も抱えていた。

 馬券購入すなわち投票作業の実に7割がインターネット上で行われるようになった結果、競馬場やウインズに直接足を運ぶユーザーの減少が懸念される状況にあったのだ。オフラインのシーンでもオンライン同様の利便性とセキュリティを確保し、競馬場やウインズに足を運んでもらう施策は、エンターテインメントとしての競馬の魅力を伝えていくために不可欠だったのである。

 このキャッシュレス販売の利用者は開始から17カ月で14万人を突破。競馬愛好者の数が500万人と言われる中での実績ゆえに評価は高い。キャッシュレス券売機も、JRAが運営する競馬場全10カ所では設置済み。全国に41カ所あるウインズの内15カ所にもすでに設置され稼働しており、今後未導入のウインズにも設置される計画が進んでいるという。