見極めるべきは自社の強みと弱み

富士フイルムホールディングス「OpenInnovation Hub」小島健嗣氏

 続いて、企業同士が共創し、オープンイノベーションを実行する上での阻害要因についても考えを聞いた。

 2018年にJOIC(オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会)とNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が発行した『オープンイノベーション白書 第二版』では、その阻害要因について「オープンイノベーションにより自社内で何を実現したいかという定義や目的があいまいであることがあげられる」とある。つまり、自社のリソースで不足している範囲を補完するため、まず最初に外部リソースとして何が必要なのかを正確に見極めた上で舵を切ることが、オープンイノベーションを成功に導く最も重要なカギの1つといえる。小島氏もその課題に対し、施策を打ち始めているという。

「いままで3000社近いビジネスパートナーが『Open Innovation Hub』に来場しましたが、次のステップに行けたのは全体の15%くらいです。それはもちろん課題に対する我々の技術が不足している、お互いに接点がないなどの理由があるのですが、分析していくと、“強み×強み”の中でビジネスパートナーの強みがなかなか一言で言えないパターンが多いというのが分かってきました」

 結果的に、お互いの強みや弱みを相互に客観的に理解し合うことで、共創が進展していく実感があるとのことで、今年からは、富士フイルムの技術を紹介して終わりではなく、相手となる企業の強み(弱み)についてもワークショップで話し合うというプロセスを始めたという。

 最後に、今後「Open Innovation Hub」を通じて共創を強化していきたい、もしくは注目している研究や技術・サービス分野について、小島氏はこう答えてくれた。

「我々は、写真フィルムなどで培ってきた技術を整理し、“コア技術”として12個定義しました。継続的にコア技術を進化させていくことはもちろんですが、それ以外で大事だと考えているものが大きく2つあります。1つはAIやICTをどう強化していくかということです」

 AIやICTをどう強化していくか。これまで富士フイルムが培ってきたフィジカルの部分とサイバーの部分をどう結びつけるかという点で、AIやICTの技術はとても重要だと考えているとのこと。そこで富士フイルムはAIやICTに関するオープンイノベーションを行う拠点「Brain(s)」を昨年、丸の内のWeWork内に開設。現在、「Open Innovation Hub」との連携も進めているという。

 また、モノ作りを重要視してきたメーカーとして、海外で生産している製品もあるものの、原点となるフィルム工場はずっと神奈川県の南足柄市にあるという。

「そこには非常に高い技術があるので、モノ作りの部分でもう1度何ができるかというところに立ち返るのも、もう1つの大きな観点だと考えています」

 まさに自社の強みと不足している部分を正確に見極め、舵を切り続けている富士フイルム。オープンイノベーションを積極的に進める企業として、社会の未来が描きづらいこの時代を生き抜くベストパートナーとして、今後もその存在感を増していきそうである。