「Open Innovation Hub」の自覚と成果

 ひと言で企業間オープンイノベーションと言っても、実に様々な形がある。小島氏も、「それぞれのアセットを持つ企業、ベンチャーやスタートアップ、投資会社などのいろいろな考え方が、ちょっと錯綜しているとは感じています。それは悪いことではないと思うのですが、基本的には新しい未来、人が幸せになるようなビジネスが最終的に成立するかどうかが重要だと思います。その中で、我々のやっていることが自覚できるようになってきたというのはあります」と、現状分析をする。

 そうした企業間の多様な考えがある中で、「Open Innovation Hub」が“自覚”したものとは具体的にどういうことなのだろうか。実例を挙げていただいた。

「例えばみなさんが使っているカメラ、内視鏡、監視カメラ、プロジェクターなどがありますが、これらの製品には光をコントロールするためのレンズが入っています。我々は、そのレンズを高精度に作る技術を磨いてきました。実は化粧品も、お肌をいかにキレイに見せるかという点では光をどうコントロールするかが重要で、レンズ開発で取り組んできた光のコントロール技術と通ずるものがありますね。また、写真フィルムで培ってきたナノテクノロジーや写真の色褪せ防止などの技術も化粧品に応用されています」

「Open Innovation Hub」では、富士フイルムの技術アセットの全体像を連携する企業に見てもらうと同時に、富士フイルム側も企業を見て、相互にできることの可能性を探り、コラボレーションの形を見つけて行くのだという。

「ここは最初の出会いの場で、その後は社内の適切な部門につなぎ、次のステップに進むという形になります」

様々なコラボレーションが新たなイノベーションを生み出す

 さらに小島氏に、5年続けてきた中で印象に残った取り組みについて聞いた。

「おもしろかった取り組みの1つが、森英恵さん以来日本人として史上2人目、12年ぶりの快挙となる『パリ・コレ』の公式ゲストデザイナーの1人に選ばれた、中里唯馬さんとの共創ですね。我々の技術の中で、プラスチックに模様を書いて、曲げても剥がれないインクジェット技術を採用いただき、それで彩色したプラスチックのモジュールで作った洋服で、パリ・コレに出展されました」

 中里さんは、布で洋服をデザインするだけではなく、全く新しい素材を使った未来の洋服を提案していることで著名なデザイナー。パリ・コレに出展するもののアイデアを探している中で共創につながったという。パリ・コレの出展後も、富士フイルムの化粧品のローンチイベントをプロデュースしてもらったりなど、関係が続いた。

「もう1つ、思い出深いのはヤマハ発動機さんとの取り組みです。バイクの付加価値をどうするかを考えられていて、デザイナーの方から、我々の合成皮革に描けるインクジェット技術を使い、スクーターのシートにオンデマンドで柄が描けたら面白いねというアイデアが出まして。毎日座って、こすれたり、雨風にさらされたりしても消えないというテストまで行なっていただき、最終的に量産品になりました」