弘前大学COI*1を核に、産学官民連携で推進する「超多項目健康ビッグデータで『寿命革命』を実現する健康未来イノベーションプロジェクト」が、第1回日本オープンイノベーション大賞の内閣総理大臣賞を受賞した。「短命県青森」という不名誉な呼称を返上し、健康で豊かな人生を全うするための取り組みから、日本、アジア、そして世界に共通する課題解決の道筋が見えてくると期待されている。

2000項目×1000人×14年分
弘前市に蓄積したビッグデータ

 47都道府県で最も平均寿命が短い青森県*2。脱短命県を目指して2005年に始まったのが、「岩木健康増進プロジェクト*3」だ。弘前大学がイニシアチブを執り、旧岩木町(現弘前市)との共同プロジェクトとして毎年10日間、合計1000人以上が参加する大規模住民合同健康調査を実施してきた。これが今や「2000項目×1000人×14年分」の健康ビッグデータとして大きな価値を生み出している。

「全世界的にもこれほど多項目で経年推移まで伴った健康ビッグデータは例を見ません。産学官民が一丸となって地道に取り組んだからこその結果です。予防が重要視される中、このデータに、産業界が注目したのは当然のことといえます」

弘前大学COI研究推進機構 (医学研究科)教授/COI副拠点長(戦略統括)  村下公一氏

 そう語るのはCOI副拠点長としてプロジェクトをけん引している弘前大学教授の村下公一氏だ。

「DNAなどの分子生物学的データに、血圧や肥満などの生理・生化学データに加えて、社会科学分野である労働環境や経済力などのデータ、人文科学分野である就寝時間や運動習慣、ストレスなどのデータなども含む網羅的なデータが14年間蓄積され、延べ人数にして約2万人分集積できたことで、多様な角度からのデータ解析が可能になりました」とデータの価値の一端に触れる。

 日本一の短命県という地域で寿命革命を達成し、解決の道筋をモデル化すれば、地域課題解決にとどまらない活用が見えてくる。

「企業の皆さんも、地域や国際社会の健康増進という社会課題に本気で貢献したいと考えて参画しています。だからこそ、アンダーワンルーフというコンセプトのもと、多様な業種の企業が机を並べて、目的を共有しながら一体的に取り組めるのです」

 弘前大学COI研究推進機構の呼び掛けで集まったコンソーシアムは、現在約60の組織から構成されるまでになっている。村下氏が言うように、企業からはライオン、花王、クラシエ、サントリーといった事業領域が競合する企業も名を連ねる。また、学術的分類においても重層的なデータ群がそろったことから、京都大学、東京大学、名古屋大学など、複数の研究機関が参画。バイオインフォマティクス、生物統計、臨床統計など、複数分野における一線級の研究者が集結してビッグデータ解析の強力な推進体制を構築し、AIなどを駆使した疾患発症予測モデルの開発などに精力的に取り組んでいる。一地域の課題が、驚くほど大規模で大きな可能性を秘めた産学官民連携プロジェクトへと成長している。

*1  センター・オブ・イノベーション。文部科学省が2013年に定めた、全国18カ所の産学連携のイノベーション拠点。潜在する社会のニーズから10年後を見通し課題を設定、既存分野・組織の壁を取り払って解決に取り組む
*2  平成27年都道府県別生命表(厚生労働省)
*3  2005年に弘前大学、弘前市(旧岩木町)、青森県総合健診センターなどの連携のもと、弘前市岩木地区住民の生活習慣病予防と健康の維持・増進、寿命の延長を目指して企画されたプロジェクト