
筆者のように地方で育った人ならおわかりだと思いますが、地方における地方銀行(地銀)の存在は、大都市在住の方の想像以上に大きいものがあります。その地銀から投信(投資信託)の購入を勧められて、どのように考えればいいかと悩んでいる方がいるかもしれません。具体的には、地銀で投信を買うメリットは何なのか、それを検証してみたいと思います。
投信購入を勧誘されると断りづらい
地銀の経営難が話題になっています。金融庁によると、全国の地銀106行のうち半分が本業赤字とのこと。本業赤字とは、貸し出しや投資信託の販売など、銀行の主力業務で採算が取れない状態を指します。日銀が2019年4月にまとめたレポートによると、10年後には約6割の地銀が最終赤字に陥ると試算されています。
しかし前述したように地銀は、預金や融資でその地域の経済活動を支えるだけでなく、直接的・間接的に地域社会の運営に欠かせないインフラとなっています。
このような“強大な地銀パワー”を根幹で支えているのが、地縁血縁による結びつきの濃さです。地元の経済界には、戦後復興期や高度経済成長、バブル経済、リーマン・ショックなど、長い歴史のなかで地元の金融機関に助けられ、一緒に歩んできたという認識が強く残っています。かつては、親類縁者の就職をお願いできたこともありました。「○○銀行(地銀)とお付き合いできたら一人前」というような、企業を評価するモノサシとしてのブランド力を持っています。
勤務先や経営する会社、人によっては家族・親族、そして個人的にもお世話になっている可能性の高い地銀。その担当者から「新しい投信が発売されるのですがいかがですか?」などと言われたら、簡単に断ることは難しいかもしれません。その結果、よくわからないリスクの投信を小口で何本も保有する――そんな状況になってしまっている人もいるのではないでしょうか。
投信販売に期待を寄せる地銀だが
地銀で投信を買うことに問題があるわけではありません。ただ、経済合理性以外の理由で商品選びをしてしまうケースが、他の販売チャネルより相対的に多い可能性があるので注意しましょうということです。
少子高齢化や低金利による利ざや低減などによって経営が厳しくなっているなか、地銀各行は投信販売による収益に期待を寄せています。銀行を挙げて注力するなかで「お客さまニーズ」という定義名分のもと、さまざまなタイプの投信が販売されるようになっています。
たとえば、先物を活用して国内外の株式や債券、不動産投資信託(REIT)に分散投資し、運用資産の3倍相当額に投資したのと同様の運用成果をめざすもの。また、運用期間があらかじめ決められた単位型(一般の投信の運用期間は無期限で「追加型」と呼ばれる)で、リスクを限定したタイプの投信も登場しました。
リスク限定型では、投信の基準価格が一定水準を下回ると安定運用に切り替えた後に償還します。このタイプは以前からありましたが、なにしろ仕組みが複雑であり、老後資金の準備を目的とした長期運用に適するかどうかは疑問が残ります。
地銀の言う「お客さまニーズ」とはどういうものでしょうか。投資初心者がほしいと思うのは「元本割れの可能性が極力低くて、リターンが相対的に高い商品」ということ。ちょっと乱暴かもしれませんが、これに尽きます。しかしそんな投信は基本的に存在しません。形だけでもそのような「お客さまニーズ」に応えようとした結果が「複雑な仕組み」の利用です。
筆者のこれまでの経験からすると、複雑な仕組みの投信は高コストでリスクがわかりづらく、投資家が知らないうちに大きな損失を被ってしまう可能性があるものが多いように思います。地銀が投信販売に注力するあまり、複雑な仕組みの投信も手がけ始めている、ということは知っておいた方がいいでしょう。
販売チャネルを選ぶ3つの検討要素
投信をどこから買うか、つまり販売チャネルをどう選ぶかは、あんがい難しいものです。選ぶ際の検討要素としては、主に以下の3点が挙げられます。
(1)自分が買いたい投信がある
投信は株式やETF(上場投資信託)と違って、販売会社ごとに買うことができる投信が違っています(複数の販売会社で買える投信もあります)。自分のほしい投信が決まっている場合は、必然的に販売会社も決まってしまいます。
(2)ネットで購入しやすいのは
銀行や証券会社でも対面での購入だけでなく、インターネットを介して投信を買うことができます。ただ、ネット専業証券・銀行の方が使い勝手がよく、情報も簡単に入手できる傾向にあります。販売手数料も相対的に安い場合が多いようです。
(3)アフターサービスをどこまで求めるか
この場合のアフターサービスとは、資産運用や商品選びに関する相談や情報提供を指します。これらは、これまで対面で購入する販売会社の方が充実していました。ただ、投信運用会社、各種情報ベンダー、業界団体などがインターネットを通じた情報提供を推進しているため、現状では販売会社からの情報の有用度が相対的に低まっているといえます。
決済や融資と資産運用で使い分ける方法も
おおまかな判断基準としては、売買の利便性とコストを重視するならネット専業証券・銀行、市場動向やリスクの情報提供を重視するなら対面販売を行う証券や銀行、と言えそうです。地銀は後者に分類されるでしょう。しかも、投資家との関係性が深く親密なので、一人一人のライフプランに合った資産運用を提案できる可能性はあるのですが・・・
決済や給与振り込みだけで地銀を利用している顧客も多く、地銀担当者のキャリアや力量もさまざまで、全員にきめ細やかなサービスを提供するのはなかなか難しいようです。また、高齢者のお客さまにリスク商品を勧誘するのはコンプライアンス上、ハードルが高くなっています。
「老後資金の準備」を目的とした長期間の資産運用という観点からは、地銀を利用し続ける合理的な理由はあまり見つかりません。一方で、地域社会で生活するなかで地銀の重要度はいまだに大きいものがあります。つまり決済・融資・支払いなどと、資産運用とは、金融機関を使い分けることを視野に入れることが賢明です。
今回、このテーマを取り上げたのは、地元で一人暮らしをしている筆者の母親の体験があるからです。筆者の母親の場合、すべて「東京の息子に聞いてから」と答えるようにと、相談して決めました。購入しない場合は「息子が認めないから」と筆者を悪者にすることで、いまのところ丸く収まっているようです。
地銀からの投信の勧めをどうしても断りきれない場合は、低コストのインデックス投信か個人向け国債あたりにしておくのも一つの手です。買わない言い訳として「お金がない」は効果がありません。決済や年金・給与の振込に地銀を使っていれば、お金の出入りが把握されているからです。長い付き合いの担当者だと心苦しく感じることがあるとは思いますが、合理的な資産運用には毅然とした態度と上手な嘘も時には必要になります。





