地場に根付く産業、見据えるのは世界
上述したイノベーション構造だけでなく、実際に取り組みを拡大させていった行動力にこそ、旭川家具の産業としての強さがあるのではないだろうか。
旭川デザインウィーク(以下、ADW)もそういった行動力を表す取り組みのひとつだ。「旭川木工祭り」から発展したこのイベントは、世界的に著名なデザイナーによるインスタレーション、トークイベント、オープンファクトリーなど、複数のイベントを期間中に旭川のあちこちで開催するというもの。シャトルタクシー・バスを用意し会場間の移動の利便性にも配慮がなされており、家具関連の専門業者だけでなく一般客も十分に楽しめるイベントになっている。飛行機や宿泊の予約が困難になるほどの人気イベントで、2019年は6月19日〜23日に開催予定、昨年の1万6500名を大きく上回る2万名の来場を目指している。
プレス発表会では、職人の後進育成についての近況報告もあり、旭川の若手職人が技能五輪国際大会の国内大会を突破し、7大会連続で本戦への出場を決めたことも発表された。こうした高い技術を持つ若手職人や、旭川家具が持つ「デザイン性」に集まる若手デザイナーが多くいることは、この先の明るい材料であることは間違いない。
課題と可能性が見えた2019ミラノ・サローネ
世界に目を向けたときに旭川家具の評価はどうなのだろうか。毎年4月に開催される世界最大規模の家具見本市「サローネ・デル・モービレ・ミラノ(通称ミラノ・サローネ)」開催期間中に、旭川家具と関係を持つ2名の方に話を聞いた。
「ミラノは実に6年ぶりの出展となりましたが、やはり得るものは多かったです」と語るのは旭川家具の中核を担うブランド“CONDE HOUSE(カンディハウス)”の常務取締役である染谷哲義氏。同氏は「toB、toC両方のお客さまに多く訪れていただきました。その中で各国の新規ディーラーとも、今後の展開や実のある商談ができました」と振り返る。
一方で、「デザイン界におけるオスカー賞」iF DESIGN AWARD 2019で審査員を務めるwe+の安藤北斗氏は、実際に旭川に行ったことはないものの、「旭川家具には注目している」と言う。
「海外において旭川の各家具ブランドの知名度は高まっていると思います。しかし『旭川』という地域名を聞くことはありません。まだ個々のブランド単位か、逆に日本製家具全体に対して評価されているという印象です」
グローバルな視点から見れば、地域ブランドの認知状況にはまだ課題が多いと言える。