メディアの取り上げ方にも注意したい

 株主優待への評価や判断については、メディアの取り上げ方を差し引いて考えることが必要だと考えています。とくにマネー専門誌や専門ウェブサイトなどの記事は、2割引くらいで読むのがよいでしょう。これは、制作サイドとして働くことがある筆者自身の感想でもあります。

 資産形成や投資に関する記事は、ある意味で書きやすいです。最近はデータを集めやすくなりましたし、関係者への取材も昔に比べれば容易になったからです。しかし、文字や数字だけで誌面やコンテンツができるわけではありません。読者の興味を引いたり読みやすさを向上させたりするためには、適度なビジュアル(イラストや写真、グラフなど)が不可欠です。

 資産形成や投資分野では、このビジュアルがなかなか難しいのです。あったとしてもグラフと取材対象者の顔写真程度。内容に価値があったとしても、似たような見た目になりがちです。そこで頼りになるのが株主優待ネタ。該当企業が提供する商品・サービスはさまざまで、写真提供も受けやすい。多くの株主優待を紹介することで、いつもと違った彩り鮮やかな誌面・コンテンツが期待できるのです。

 株主優待が個人投資家に人気なことは事実です。個人投資家を集めるために積極的な株主優待政策を行っている企業もあります。それに加えて、マネー誌などのメディア側の思惑があることも覚えておきたいところです。

株主優待も“資産運用のスパイス”として

 老後の準備をはじめとする中長期の資産形成では、分散投資でリスクをコントロールしながら投資対象の資産価値が上昇するのを待ち、複利効果を最大限に活用するのが基本です。しかしながら、これらに目をつぶってまで個別株式で株主優待を追求する経済合理的なメリットは見出せません。

 それでも欲しい株主優待商品・サービスがある、もしくは優待利回りで個別株式を選んで投資したいという方もいるでしょう。確かに、さまざまな株主優待の商品・サービスから好みのものを選ぶのは楽しいですから。その場合は、中長期での資産形成にとって遠回りになる可能性を理解したうえで投資したいところです。

 以前の記事「個人が「コア・サテライト戦略」を採用する価値」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55556)のなかで、“資産運用のスパイス”という金融商品の役割を提案しました。優待利回りを重視した個別株式への投資はまさに、そのスパイスのひとつです。

 最後にひとつ。元プロ棋士の桐谷広人さん(1949年生まれ)は、いわば優待投資の伝道師として有名です。現在は800銘柄以上に投資して“優待生活”を送っているようですが、桐谷さんの保有資産額は3億円以上、リーマン・ショック時の最少期でも5000万円程度だったとのこと。優待銘柄の発掘はともかく、自分の投資期間と資産規模を考慮したうえで参考にしたいですね。