テレビやインターネットなどで「ファンドラップ」の広告を見たことがある方は多いと思います。ファンドラップは、投資家が金融機関と投資に関する一任契約を結び、さまざまな投信(ファンド)を組み合わせて運用するサービス。2014年後半あたりから契約口座・金額ともに大きく増えてきました。

 日本投資顧問業協会によると、2018年9月末現在のファンドラップの契約金額は8兆5595億円、口座件数は80万0076件。1年間でそれぞれ約19.8%、約28.2%増えています。

毎月分配型投信の代替商品としてクローズアップ

 ファンドラップでは、投資家それぞれの投資金額、リスク志向、ライフプランなどを契約した金融機関とあらかじめ相談し、その結果に基づいて投信による分散投資を行います。一人ひとりに合ったオーダーメイドの資産運用というわけです。手間と時間がかかるので投資金額に最低条件が設定されており、対面の証券会社では数百万円からというケースが多いようです。

 そのファンドラップが近年、大きく伸びてきた理由は何でしょうか。2013年あたりにはアベノミクス相場による運用資産残高の増加と、それに合わせた新規資金の流入がありました。特筆すべきは、金融庁が金融機関に対して「フィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)」を求めて、長期投資に向いた商品の提案や投信の“回転売買”による手数料稼ぎの抑制などを強く指導してきたことです。

 なかでも、投信市場で大きな割合を占めてきた毎月分配型について、金融庁は厳しい見方をしています。運用実績を上回るほど多くの分配金を出して投資元本が取り崩され、長期の資産形成には適さないというのがその理由。販売会社は毎月分配型投信の販売を自粛するようになりましたが、その代替としてクローズアップされたのがファンドラップだったいうことです。

金融機関が積極的に進めるファンドラップ

 個人投資家にとってファンドラップ最大のメリットは、最初に運用方針を相談して決めるだけで後は運用のプロに任せられる点です。ある程度の投資資産をもち、自分で勉強したり、情報収集したりするのが苦手な投資家にはうれしいポイントでしょう。

 金融機関も収益確保・拡大のために大きな期待を寄せています。たとえば大和証券では、ファンドラップの契約者が指定した相続人に、運用資産から生前贈与できるサービスを開始。全支店へ相続コンサルタントを配置する計画も進めています。野村證券は投信以外(個別株式や債券など)も組み込んだ「ラップ口座」に、信託の仕組みを取り入れた「ラップ信託」を提供中です。

 ファンドラップは比較的多くの資産が必要になるので、投資家の多くは高齢者です。顧客の高齢化に対応しながらサービス拡充を進めていることが見て取れます。

 ファンドラップへの取り組みは地方銀行でも進んでいます。商業銀行である地銀は、自社のみで投資家と投資一任契約を結ぶことができません。資産運用会社などの他社サービスを介すことが必要になります。そこで、一部のネット証券では地銀向けのファンドラップシステムを無料もしくは低コストで提供するサービスを行っています。地銀での取り扱いが本格化していけば今後、ファンドラップ拡大の新たな局面を迎える可能性もあります。

ファンドラップでよく指摘される3つの注意点

 追い風を受けている感があるファンドラップですが、個人投資家にとっては注意点もあります。すでによく知られていることですが、ファンドラップには(1)運用コストが高い、(2)運用コストがわかりづらい、(3)運用丸投げで大丈夫か――という指摘がされています。

 ファンドラップの運用コストは、ラップ運用の手数料のほかに、投資する投信の信託報酬も別途かかります。なかには投資顧問料や運用管理料の名目で徴収されたり、解約時にかかる信託財産留保額が取られたりすることも。信託財産留保額以外の運用コストは投資期間が長くなればなるほど運用パフォーマンスに及ぼす影響が大きくなることから、投資家がファンドラップを敬遠する大きな理由のひとつとなっています

 次に運用コストがわかりづらいという点。ファンドラップの運用コストは固定報酬や成功報酬、それらの併用など、コスト体系が証券会社によって違っています。金融機関としては明確にしているつもりでも投資家から見ると複雑で、投資する前、サービスを検討しているタイミングでは明確でない面があります。

 投資を丸投げ(お任せ)する不安に関しては、そもそも投信も同じでは?という意見がありますが、ある程度のまとまった資金で複数の投信に投資するファンドラップでは意味合いが違ってきます。運用開始時のコンサルティングや商品選定、運用中のレポーティングなど、その金融機関・担当者をどこまで信頼できるのか。主観的な判断に委ねる部分が多くなりそうなことから、相対的に不安が大きくなるようです。

パフォーマンスが下がるとコスト意識がさらに高まる

 運用コストについては、高いなら高いぶんパフォーマンスが良ければ納得できるかもしれません。しかし、残念ながら最近の研究ではコストとパフォーマンスの間に合理的な相関性を見い出せていません。パフォーマンスに限らず何らかのメリットが得られれば納得できるのかもしれません。

 一般に株式市場の上昇局面では、運用コストの高さについて強い不満が表に出ることは少ないようです。「他の金融商品・サービスに比べてパフォーマンスは低いけど、ベンチマークに勝ってるし(もしくは元本割れしていないし)、ちょっと様子をみよう」と思うのではないでしょうか。これまで5年ほど日本株式は上昇トレンドにあったので、ファンドラップのコストには目をつぶることができたのかもしれません。

 株価の調整・下落局面に入ると、コストに対する印象は大きく違ってきます。足元では米国の景気後退期入りが現実味を帯びてきています。実際に2018年10月は米国株式に連動して日本株式も下落し、ファンドラップの預かり資産残高も7カ月ぶりに前月比で減少に転じたという報告もあります。投資家がパフォーマンスにより敏感になっていくことが予想されるなかで、ファンドラップの運用コストが気になる投資家は増えていくかもしれません。

高リスクのポートフォリオで資産全体の参考値に

 パフォーマンスの不透明感が高まるなかで、ファンドラップはどう活用すればよいでしょうか。たとえば、ファンドラップを資産全体の配分を考える参考値にする方法があります。投資資産の一部をファンドラップに回して、その資産配分やリバランス内容、大きな出来事が起きた場合の対応などを参考にして、他の資産の保全や拡大をめざすのです。

 たとえば、3000万円の投資資産の10%、300万円をファンドラップに投資します。投資にあたってのコンサルティングや実際の資産配分を参考に、残り2700万円を投資します。300万円にかかる運用コストを、専門家による“勉強代”と考えるわけです。

 この300万円分のファンドラップでは、最もリスクを取るポートフォリオを選択すると残りの2700万円の資産配分がわかりやすくなると思われます。これ以上は危険だというボーダーラインがはっきりするからです。リスクを中程度に取ったり低めに取ったりすると、残り資産のリスクの取り方が難しくなりそうです。

 株式投資の世界には「タイ焼きのしっぽはマーケットにくれてやれ」という格言があります。深追いするな、欲をかくな、という意味ですが、運用コストについても同じように言えるかもしれません。つまり「損して得取れ」。ファンドラップで勉強代を払っても、資産全体の成長に役立つヒントや投資法が見つかって実績を上げることができれば、コストを支払った価値があるのではないでしょうか。

 その勉強代として、いくらまでなら納得できるのか。それは投資家それぞれの資産規模とリスク志向、ゴール(何歳までにいくらつくるか)によるでしょう。ファンドラップの勉強代は比較的高くなるかもしれませんが、投資リターンも期待できます。運用コストが高いから投資しない――という見方はシンプルでわかりやすいですが、ファンドラップの仕組みを考えるともったいない気もします。