RPAの導入によるメリットとは

 政府主導で働き方改革が進められる中、多くの企業が自社の生産性を向上させるため、ICT分野への投資を強化している。中でも、ホワイトカラーの定型業務を自動化する「RPA」は、IoTやAIといった他のICT技術よりも導入の目的や成果が分かりやすいこともあり、急速に普及が進んでいる。

 今回はこのRPAについて、具体的に何をできるようにするものなのか、各業界の導入事例を中心に見ていこう。

いま話題の「RPA」とは

 RPAとは「Robotic Process Automation」の略語で、一言でいえばロボットにホワイトカラーのデスクワーク業務を代行させる取り組みを指す。ロボットといっても産業用ロボットとは異なり、基本的にはソフトウェアとしてパソコン等に導入される。「仮想知的労働者」を意味する「デジタルレイバー(Digital Labor)」という言葉で呼ばれることもあり、様々な業務プロセスの自動化を行っている。

 従来の「自動化」へのアプローチと違い、高度なITスキルや専門知識を持たない従業員でも直感的に使用できるのも特徴の一つ。具体的には顧客データの管理やデータ入力、伝票作成やダイレクトメールの発送といったごく一般的な業務に適用できるため、実用度が高い。

 また、RPAは機能や作業レベルの難度に応じて、以下の3段階のクラスに分けられる。

●クラス1「RPA(Robotic Process Automation)」
入力作業や検証作業など、定型的な作業の自動化が可能。

●クラス2「EPA(Enhanced Process Automation)」
AI技術との連携により、画像解析や機械学習等ができるようになる。ビッグデータの解析等、一部非定型作業の自動化に対応。

●クラス3「CA(Cognitive Automation)」
情報の整理や分析の自動化に加え、意思決定まで行うことが可能。

 指示された作業を忠実にこなすのがクラス1。クラス2・クラス3は導入コストや運用コストこそ増加するものの、AIとの組み合わせによってより高度かつ複雑な作業を自動化できるようになる。現在のRPAツールは大半がクラス1に相当するが、普及の背景を鑑みると徐々にクラス2・クラス3が主流になっていくだろう。

 次に、実際にRPAツールを導入している企業の割合や市場規模について見ていこう。2017年10月12日に発表されたガートナー ジャパンのRPAに関する調査結果によると、国内では14.1%の企業が既に導入済み、6.3%が導入中、19.1%が導入予定・導入を検討中。これだけ見ると、まだ「大半の企業が使っている」とは言えないだろう。

 しかし、2018年10月25日にアイ・ティ・アールが発表した「国内のRPA市場規模推移および予測」によれば、2017年度のRPA市場は売上金額35億円で、前年度比約4.4倍。2018年度も同2.5倍の高い伸びが期待されている。さらに、導入単価の下落が進みつつあるものの市場参入ベンダーが拡大していることから、2022年度には400億円市場に成長すると予測されている。同発表によると、2017年度は「それまで金融・保険業など一部の業種で先行していたRPAツール導入の動きが、他業種へも広がった年」であり、2018年度は「試行段階にある企業での本格稼働が進むことから、市場規模は大きく拡大し、この高い成長率は2020年度まで続く」とされている。数年後には、何らかのRPAツールが導入されているのが企業にとって「当たり前」になっていくはずだ。

 国内でRPA市場の拡大が予測されている背景には、冒頭で触れた「働き方改革」や少子高齢化による労働力の減少がある。また、工場のラインなどに積極的に自動化の仕組みを取り入れることで一定の成果を収めている製造業での知見を、今度はデスクワークに活かせないか、という機運が高まっていることも理由に挙げられるだろう。

RPAがもたらすビジネス現場の変化とは

 では、実際にRPAツールを導入することで生じるメリットとは何だろうか。各業界の事例を見ていこう。

●日本生命保険
 2014年12月、RPAテクノロジーズが提供するソフトウェアロボット「BizRobo!」を導入。同ロボットは「日生ロボ美ちゃん」と名付けられ、日本生命保険銀行窓販事業部門に配属された。請求書データのシステム入力作業にRPAを導入することで、1件あたり数分かかっていた処理が20秒ほどに短縮され、集中力の欠如による単純ミスも無くなった。また、単純作業を自動化することでより柔軟性が求められる業務に充分なマンパワーを割けるようになった。

●三菱東京UFJ銀行
 煩雑な定型業務が多いことから、他業界に先駆けてRPAの導入が進んでいた金融業界。中でも同行は、国内においていち早くRPA導入に向けて動いていたメガバンクとして知られている。前出の「BizRobo!」を試験導入し、2年間の先行運用期間中に20種類の事務作業におけるパイロット運用を実施。年間で8000時間分の事務処理作業削減に成功という結果を受け、2015年11月から本格適用へ。これまで人が行っていた「1時間おきに社内システムにアクセスしてデータを取得。チェックしたデータをエクセルにコピーする」といった煩雑な作業を自動化することで、担当者の負担を大きく軽減することができた。

●サッポロビール
 ユーザックシステムの「Autoブラウザ名人」を導入。日々の営業活動や製品開発に活用するために必要な、大手小売業グループが開示しているPOSデータのダウンロード業務を自動化した。ダウンロードすべきデータが大量にあるため、かつては担当者が毎日、あるいは毎週数時間、この作業に付きっきりになってしまっていた。RPAを導入することでミスなく、手作業の頃は取得を諦めていた範囲のデータまで自動でダウンロードできるようになった。

●日本ファシリティ
 ソフトバンクのRPAソリューション「SynchRoid」を導入。多店舗展開する企業の施設管理業務を請け負う同社で発生する、年間約6万件もの事務作業の自動化に成功した。主に自動化したのは、報告書を基幹システムへ登録する作業。人が行うと1回約2~3分かかり、年間で約2000時間かかっていた作業を自動化することで、1回にかかる時間は20秒程度に短縮され、ミスも無くなった。削減された業務時間で顧客サービスの向上を目指すほか、RPAの技術を活かした新規事業領域の開拓も視野に入れている。

●富士運輸
 2018年7月3日から2018年12月21日まで、ドコマップジャパン、NTTドコモと共にNTTドコモのRPAサービス「WinActor」と「AIインフォテイメントサービス」を活用し、ドライバーの日報作成から事務員の確認業務、請求データ発行業務といった、運送業界で生じる一連のルーティン業務を効率化・自動化する実証実験を実施した。これまで事務員はドライバーが手書きで作成した日報と、事前に提出された運行計画書の内容が一致しているかどうか目視で確認していたが、RPAを活用することでクラウド上の日報データと運行計画書の内容を自動で照合し、請求データ確定までの業務を自動化することが可能に。これにより、事務員の事務処理にかかる稼働時間を約50%削減することを目指すと発表された。業界内において深刻化する、人手不足や労働時間の長時間化といった課題をRPAで解決しようという動きが広がっている。

 このように様々な業界でRPAが導入され、業務の改善が図られている。担当者を単純業務から解放し、その分の時間をより重要な仕事に充てられるだけでなく、数をこなさなくてはならない単純作業において発生しがちな人的ミスを防止することができる。作業工数の削減によって時間外労働を削減できれば人的コストも削減できる。業界を問わず、ぜひ導入したいという企業は多いはずだ。

AIとの連携でさらなる発展が見込める

 現在のRPAツールのほとんどは「クラス1」だと述べたが、AIと連携させることでより高度な自動化を可能にする取り組みも行われてる。

 例えば、前項で取り上げた富士運輸の実証実験ではドライバー向けに、運転中に音声エージェント(AI)の問いかけに答えるだけで日々の日報作成や業務の記録ができる仕組みを提供している。作成された日報データは自動でクラウド上にアップロードされるため、事業所に戻ってきた後に改めて日報を作成・提出する必要が無くなるのだ。そして先述の通り、その日報を事務員が確認する作業は自動化されている。

 また、2018年11月20日にNTTコミュニケーションズが、対話型AIエンジンとRPAを組み合わせてコンタクトセンターの応対から事務処理までのプロセス全体を自動化する「コンタクトセンターDXソリューション」の提供開始を発表している。AIとRPAをメインにコンタクトセンターの業務を完結させることで、電話オペレーターや店舗従業員はより顧客体験の質を向上させるための業務に注力できるようになる。

 汎用型AI(AGI)の完成や「シンギュラリティ」の到達にはもう少しかかるだろうが、ツールと特化型AIの組み合わせよる単純作業の自動化は急速に進んでいきそうだ。

 労働力の減少が避けられない以上「自動化」の流れは止められない。ツールやAIの進化によって自動化できる業務も増えていくだろう。RPAを導入しさえすれば業績が上がるわけではないが、「この業務を自動化したい」という明確な目的があるのなら、該当するツールや先行事例を探してみると良いだろう。

 RPA導入を成功させるには、どの部署のどの業務をどう改善したいのかという目的を明確にすること。そしてPoCの段階で、実際にツールを使うことになる現場の意見をしっかりと汲み取ることが必須条件となる。今後ますます貴重なものになっていく「人」材に、より価値の高い業務を任せるためにもRPAを有効活用して欲しい。