大手企業とスタートアップの思考回路の違いを知ることが協業を成功裏に進める鍵

株式会社ユーザベース 執行役員・太田智之氏

 大手証券会社でM&Aアドバイザリーとしての経験とスタートアップでの事業責任者というふた軸の視点を持ち合わせている株式会社ユーザベース 執行役員・太田智之氏は、大手とスタートアップの協業にあたり、それぞれの世界の違いを理解したうえでの会話をすべきだと話す。

「簡単ではありませんが、お互いの世界感や思考回路の違いを知ることが協業を成功裏に進める鍵です」

 大企業は合理的な良いアイデアを基に、完璧なプロダクトで確実に市場シェアを高めていく。失敗はブランドを傷をつけるという意味を持ち、また、マスマーケットをメインターゲットに設定する結果、特定のニーズを持つ人々を相手にしにくい。一方、スタートアップは一見不合理な良いアイデアを基に市場を独占していくことを狙う。そのために、ごく少人数であってもイノベーターに愛してもらえるようなMVP(Minimum Viable Product=必要最低限状態のプロダクト)からスタートし、その声を基にPDCAを高速で回し続けプロダクトを成長させていくスタイルになる。

 一見不合理でありながら良いアイデアの例として、「自らアセットを持たないことがITスタートアップの強みですが、当社のNewsPicks事業ではソーシャルメディアとしてのプラットフォームに加えて、編集部を抱えています。メディアとしての価値とプラットフォームを組み合わせることで強いビジネスモデルが作れています」と説明。

 また、昨年末、世界的メディア大手のDow Jones社とジョイントベンチャーを組み、米国版NewsPicksをリリースした際にも、大手企業とスタートアップの世界の違いを感じたという。「彼らは『米国版NewsPicksを大きくするために一気にアクセルを踏みたい』と言いますが、スタートアップの世界ではそれだけでは失敗します」。企業文化が染み付き、ある種の常識ができてしまうと、その中で物事を考えてしまうことへの警告を鳴らした。

 協業する際には「なぜ当社がやらなければならないかを捉え、最終的にはこの人と組みたいかが決め手になります。そこでは戦略のみならず思想が合うかどうかが大事で、お互いが同じ世界が見えていないところでやってもしょうがありません。分からないことがあるなかで直観力も大切にしながら意思決定をしていくスタートアップにとっては、こうした直感力を受け入れてくれる文化が協業先の大手企業にあるかも大事です」。