研究者たちが目指すゴールがAGIである点は、今でも少しも変わっていないはずだ。しかし、実現の道のりはまだ遠く、汎用人工知能は現在のところ、どこにも存在しない。
とはいえ壮大なゴールを目指して研究は一歩ずつ前進させていかなければならない。第2次ブームの経験から、次のようなアプローチが生まれた。まずはある部分だけでも特化したAIを実現し、少しずつ特化する分野を増やしていく。そうすることで、いつの日か汎用人工知能の姿が見えてくるだろう。そうした発想で現在の第3次AIブームの研究が進んでおり、研究対象となる特化したAIのことを専門用語で「特化型AI」、もしくは「弱いAI」と呼んでいる。
ところで、第3次ブームがなぜこれほど幅広い業種業態や用途において盛り上がっているのだろか。それは、AIが色々なコンピュータシステムに次々に実装され、産業や社会のあらゆる領域で具体的な成果を出してきているからにほかならない。これまで繰り返してきたAIブームの歴史の中で、AIがこれほど現実に社会で実利用されたことはなかった。
しかも今の時代、AIを利活用できるのは一部の天才サイエンティストだけではない。AIの研究者でなくても、資金が乏しいベンチャー企業であっても、AIを自社のコンピュータシステムに取り込むことができる。
大きな要因は、ICTの世界的なリーダーであるAmazon、Google、Microsoft、IBMなどが競うようにしてクラウドサービスでニューラルネットワークの機能を一般に提供しているからだ。各社は口をそろえて「AIの民主化」(誰でもがAI技術を使えるようになること)をうたっており、AIは年々高性能化しつつも、低価格で提供されるようになっている。
次回からは、急速に手に届く範囲に近づいてきたニューラルネットワークの仕組みやディープラーニングなど、第3次AIブームの中核をなす技術や動向を分かりやすく解説します。お楽しみに。