そのためには、まず社長自らが市場ニーズ重視の姿勢を明確に示すことが重要である。

 すなわち、グローバル企業が鎬を削るシリコンバレーや中国市場に年数回ずつ足を運び、自分の目で見て市場ニーズを肌で感じられるようになるまで理解することが変革断行の出発点である。

 そのうえで、長期的な視点に立ち、自社としてどのような新規事業に取り組むか、中国市場のどの分野で勝負するかを判断し、そのために必要な市場ニーズ把握の仕組み、人材、技術、資金などを準備する。

 それらの各要素が市場ニーズの変化に合わせて連動し、研究開発、コストダウン・品質管理といった生産管理、販売網の整備などが相互に有機的に連携するよう経営組織を改革する。

 このような大事業を推進できるのは社長しかいない。副社長以下は社長になること、あるいは昇格することが最優先の目標であるため、長期的視点から会社のあるべき姿を根本的に考え直して実行に移そうとする人は極めて例外的である。

 その責務を担う社長もよほどの覚悟がなければ、このような難事業への大胆なチャレンジはしない。

 長期的な将来における自社のあるべき姿を真剣に考え、そのために勇気を奮い立たせて全力を投じる社長でなければ、リスクを冒してこの難事業に取り組むことはない。

 数年で任期を終える社長にはそこまで考える余裕はない。社長の仕事は難しい。軌道に乗るまでに3~4年は要する。

 もし5~6年の任期で社長を退任するのであれば、経営が軌道に乗った頃にはもう後任人事や後継体制を考えなければならず、長期的視点から自社のあるべき将来像を考え、その実現に向けて自らチャレンジする時間はない。

 そう考えれば、社長の任期として10年程度は必要である。

 ただし、必ずしも社長にふさわしい能力を備えた人物が常に社長に選ばれるわけではない。もし社長の任に堪えない人物が就任したことが事後的に明らかになった場合には、なるべく早く次の社長に交代することを促すことが重要である。

 そうした社長自身がリスクを取って主導する大胆な経営改革を通じてグローバル市場に謙虚に向き合い、グローバル市場の多様性、急速な変化に対応する経営組織を構築することが多くの日本企業に共通の課題である。

 この難題を克服し、多くの日本企業が失敗を恐れずシリコンバレーと中国市場にチャレンジするようになることを期待したい。