焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」で生肉を食べた客が感染した集団食中毒事件。5月16日時点で患者数は165人に達し、うち22人が重症、4人が死亡という被害状況だ。
毎年のように繰り返される食中毒事件。しかも、今年の夏は電力不足による節電で、食中毒が起こりやすいと懸念されている。そこで、4月に起きた「焼肉酒家えびす」での食中毒事件を振り返るとともに、夏に向けて家庭と事業者が衛生面で注意すべき点を考えてみたい。
罰則のなかった衛生基準
「焼肉酒家えびす」での食中毒の原因は、生の牛肉を使ったユッケから検出された腸管出血性大腸菌O111(オーいちいちいち)だった。
客に提供されたのは、生食用ではなく加熱用の生肉だった。しかも、厚生労働省の衛生基準では、生肉の場合、肉の表面についている細菌を取り除く「トリミング」作業を求めていたが、食肉処理業者もえびすもこの作業を行っていなかった。
厚生労働省のこの衛生基準は1998年に策定された「生食用食肉等の安全性確保について」に記されている。この通知は、90年代後半に起きたO157(オーいちごなな)による集団食中毒事件を受けて作られたものだ。
しかし、指針の基準に反しても罰則はなく、実際に生食に使われる肉は、ほとんどが「加熱用」だった。
例えば、東京都福祉保健局によると、2008年度に、この衛生基準を満たした「生食用」肉が出荷されたのは馬の肉・レバーのみ。牛肉は、国内のと畜場から生食用として出荷された実績はない。一部生食用として輸入されている牛肉はあるが、その量はごく少ないものと考えられる。また、鶏肉には生食用の衛生基準がない。