5月1日に米国が国際テロ組織アルカイダのウサマ・ビンラディン容疑者を殺害したことから、報復テロの可能性がささやかれ、国際的緊張はいやがうえにも高まっている。技術漏洩がテロの恐怖につながることから、日本も敏感にならざるを得ない。

 しかしながら、日本から技術を盗み出すのは朝飯前。世界ではそんな認識がまかり通っている。日本の技術管理の甘さが世界を不安にさせる一因となっている可能性は否定できない。

論文捏造疑惑で暗躍した1人の中国人

 そんな中で筆者の頭をよぎるのが、東北大学総長の論文捏造疑惑である。

 今年になって、英「nature」誌や「週刊新潮」(2011年3月17日号)でも取り上げられ、広く知られるようになった騒動だ。

 東北大学総長の井上明久氏は、新素材「バルク金属ガラス」の世界的権威として、日本学士院賞、米国物理学会マックグラディ新材料賞、Acta Materialia Gold Medal など様々な賞を受賞した著名な研究者だ。

 1990年代前半までマイクロメートルサイズの薄板や極細線しか作れなかったバルク金属ガラスを、初めて「棒状」にしたことで注目を集める。93年論文では「直径1センチを超える棒状金属ガラスの作製に成功した」と発表。また、96年論文では「直径3センチに成功」と報告、当時の世界のチャンピオンデータとして注目を集めた。

 だが、1994~2004年にかけてこの再現実験が行われたが、世界各地のどの研究機関も井上氏の報告した結果に到達することはできなかったという。「再現」できない実験結果に大きな疑いが持たれたのだ。

 井上明久氏の論文に対して、研究が不正に行われたという告発があったのは2007年のことである。

 当時の河北新報社の記事(2007年12月31日)は、次のように伝えている。内部調査した東北大の対応委員会は「現在は共同研究者が大学にいないため再試験は困難」「当時の手法で再現性を求めるのは不可能」などと説明した――。