(国際ジャーナリスト・木村正人)
[ロンドン]ロシアはいかにウクライナ戦争で非在来型作戦を展開したのか――。
シンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)」のジャック・ワトリング上級研究員(陸戦担当)らは、ロシアがウクライナ政府を転覆させるため昨年2月以降、仕掛けた秘密作戦、心理作戦、破壊工作、サボタージュ、特殊作戦、諜報・防諜活動を分析した報告書を発表した。
題して『ロシア・ウクライナ戦争(昨年2月~今年2月)におけるロシアの非在来型作戦から学ぶべき予備的教訓』(39ページ)。ワトリング氏らは戦前・戦中を通じウクライナの情報機関、治安機関、法執行機関の関係者からインタビューし、ウクライナの戦場に残されていたり、ロシアの特務機関や組織から漏れ出したりした大量の資料を解析した。
勝利のメカニズム
ロシアが描いていた「勝利のメカニズム」はウクライナ国内の不安定化と無秩序化だった。これによって政府と軍の指揮命令系統が機能不全に陥り、政府機関への国民の信頼が損なわれ、国家の安定が失われる。国際パートナーからの援助が最小化されるため、ロシア軍はウクライナの持続的・組織的な抵抗に遭うことはほとんどない――と想定していた。
ロシアの少数の計画立案者は2014年のクリミア作戦の成功を繰り返すことを思い描いた。この作戦もウクライナの軍事的抵抗がないことを前提に立案されていた。当時のウクライナ軍は、参謀本部指導部が命令を出すのを拒んだため、ロシア特殊部隊をクリミアに運ぶ11機の攻撃ヘリと8機の軍用輸送機をウクライナ領空で撃墜できなかっただけだった。
単に「ついていた」というのがクリミア作戦成功の唯一の要因だったにもかかわらず、クレムリンは自分たちの実力と思い込んだ。それがウクライナ全面侵攻という無謀な戦争へとつながっていく。