1973年、総理大臣時代の田中角栄(写真:AP/アフロ)

(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)

 意外と言うべきか、予想どおりと言うべきか、意外に岸田政権が健闘しています。

 昨年7月の安倍晋三元総理銃撃からの国葬儀の是非をめぐる論争、統一教会問題で一貫して支持率が下がり続けた中、特に閣僚の相次ぐ辞任(更迭)にも見舞われた中、よく持ちこたえ、同時に、よく宿題をこなしているとみることもできます。

 正直、総理として岸田文雄氏が何をやりたいのか、日本をどうしたいのかは、引き続き伝わってこないわけですが、大きな理念やビジョンはともかく、いわば、与えられた課題を着実にこなすサラリーマン的に、次々に宿題をこなしているのが好感されているのかもしれません。日本人は、こういうタイプの方が多いので、共感されているところもあろうかと思います。

「普通の国」の「普通の国防」に向けたスタート

 最近は、夏休みの宿題のように、事実上年末までという期限がある中、何とか各種宿題をやりきった、という印象があります。過去最大規模まで膨らんでしまったものの、約114兆円もの巨額の予算案(政府原案)をまとめ、税制大綱もまとめ(NISAの枠拡大など)、GX実行会議も形を整え、新しい資本主義実現会議も一応のまとめを出し(スタートアップ育成5か年計画や資産所得倍増計画)、全世代型社会保障構築会議報告書もまとめ(出産一時金の拡充など)、来年4月発足のこども家庭庁の予算などの道筋もつけ、という具合です。年初早々には、G7サミット議長としての各国行脚もこなしたわけです。当たり前といえば当たり前なのですが、目の前の課題をしっかりとこなしている、と見ることもできます。

1月14日、外遊先のワシントンで会見する岸田文雄総理(写真:AP/アフロ)

 そんな中、こなした最大の宿題の一つは、いわゆる「安保3文書」の改定だと思われます。全て足すと100ページを超える大作を年内にまとめたわけですが、一言で言えば、ようやく普通の国の普通の国防に向けたスタートラインに立てるための基礎を作った、と言えます。

 相手国の意図を希望的に忖度する形ではなく、冷静に軍備そのものを脅威ととらえる姿勢が顕著な文書群で、特に、中国を重視し、もはや専守防衛では国土は守れないという現実を受け入れて反撃能力(敵基地攻撃の能力)の必要性を明確に位置付け、弾薬や抗堪性がなければ戦争は続けられない(継戦能力)という現実を受け止め、現実的なターゲット(5年後や10年後)を意識して、戦略と計画に分けて全体を組み立てています。

 今までは、守ってもらう、という前提が濃厚に強調されていましたが、我が国が自ら国防をする、という姿勢がこれまでより明確になったといえます。