外国で戦死した米軍兵士の遺体は、まずデラウェア州のドーバー空軍基地に到着する。棺は星条旗に包まれている。牧師が簡単な祈りを捧げた後、8人の儀仗兵が棺を移送する。

 2001年以来、毎週見られる光景だ。牧師はすでに5000回以上の祈りを捧げている。

 しかし、メディアでこの光景を目にすることはほとんどなかった。なぜなら米国には「基地に送還された米国人遺体を収めた棺の取材と撮影、写真掲載、映像放送の行為を禁止する」という法律があるからだ。

 貨物機内にところ狭しと並べられた棺。包む星条旗の鮮やかな色合い。戦争の犠牲とは何かを語る強いイメージ。戦死者の棺の写真は、ベトナム戦争当時、米国内で反戦の世論形成に大きく貢献したと言われている。

 1991年に撮影が禁止されて以来、言論の自由を侵すとしてメディアから激しい批判を浴びてきたこの法律が、2月26日、廃止された。

パパ・ブッシュが一方的に通した法律だった

 米国では、イラクとアフガニスタンで起こっている現実を覆い隠そうとするジョージ・W・ブッシュ前大統領が通した法律だと思われているが、そうではない。およそ20年前、当時の大統領とメディアの小競り合いが発端となって作られた法律だ。

 当時の大統領は、ジョージ・H・W・ブッシュ、通称「パパ・ブッシュ」だった。

 1989年12月、米国がパナマに軍事侵攻した翌日、ブッシュ大統領(当時)はホワイトハウスで記者会見を行った。同じ時間、ドーバー空軍基地に、パナマ侵攻で最初の犠牲者となった米軍兵士の遺体が到着していた。

 テレビメディアにとって、両方とも逃せないニュースだった。そのため主要ネットワークは画面を2つに割り、一方に記者会見の映像を、もう一方に儀仗兵によって運ばれる棺の映像を流した。